3年生の皆さんお疲れ様です。
講義の解説になります。
なかなかのボリュームですが、頑張って読み込んでください!!
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血液尿関門の構造は?
糸球体係蹄の血管腔側から見て、有窓の内皮細胞、基底膜、足突起を持った上皮細胞からなる三層構造を呈しています
内皮細胞・上皮細胞・メサンギウム細胞を見分けられる?
基底膜の血管腔側、すなわち赤血球と同側にいるのが内皮細胞、その反対側にいるのが上皮細胞です
上皮細胞はその特徴ある足突起で直接同定することも難しくありません
メサンギウム細胞は血管を束ねる位置にいて、少なくとも基底膜の外側、すなわち上皮細胞側にいることはありません
GFRって何?
1分間に血液尿関門を通って濾過される血漿量の体積です
1分間当たりの原尿産生量と言っても差し支えありません
一方、eGFRは血清中の溶質濃度がその値にあるような糸球体濾過機能の推定値であり、厳密にはGFRとは異なる概念です
実際に、GFRの単位はml/minですが、eGFRの単位はml/min/1.73m2であり、それぞれの指し示しているものが異なっていることがわかります
GFRが高いとなぜ腎は障害されやすい?
機能するネフロンの数が多くて全体のGFRが高い場合は問題ありません
腎が障害されやすいのはネフロン当たりの糸球体の濾過効率が上がっているために見た目のGFRが高くなっている場合です
それぞれの糸球体の濾過効率は、その糸球体の物理係数に基底膜内外の静水圧較差から膠質浸透圧較差を引いた値をかけることで求められます
その中の最大規定因子は基底膜内外の静水圧較差ですが、しかし基底膜外の静水圧は膀胱尿管逆流現象でもない限り低い値で安定しています
結局、それぞれの糸球体の濾過効率を上げるには基底膜内側の静水圧を上げる、すなわち糸球体内の血圧を上げるしかなく、これが長期的には糸球体を障害させる原因となります
理由はもう一つあります
尿細管をはじめとする腎内の組織は糸球体で濾過を受けた後の輸出細動脈血で栄養されています
糸球体濾過が亢進すると、輸出細動脈血の血漿分画が少なくなる、すなわち尿細管を栄養する血液の粘稠度が上がるということを意味し、これによって尿細管が虚血によるダメージを受けるリスクが高まります
皮質と髄質の尿細管代謝の違いは?
皮質の尿細管上皮細胞(すなわち近位曲尿細管、ヘンレの太いわな、遠位曲尿細管、接合尿細管などの分節の上皮細胞)は一般にミトコンドリアが豊富で、すなわち酸素依存性に大量のエネルギーを産生/消費しています
これらの皮質の上皮細胞はエネルギーを湯水のように使いながら多岐に渡る輸送体を駆動させていますが、逆にエネルギー供給が止まる=虚血に至ると簡単にダメージを受けてしまいます
髄質の上皮細胞(すなわちヘンレの細いわな、集合管の上皮細胞)はミトコンドリアが乏しく、内因性エネルギーを用いた活動は活発ではありません
そのかわり虚血には強く、なかなかダメージを受けません
また、髄質は組織間液の浸透圧が高く、これを利用して皮質の分節では無理な「尿の濃縮」も行われています
GFRを推定するための2つの原理は?
一つはクリアランス検査です
糸球体で全て濾過され尿細管で分泌も再吸収もされないような溶質の血漿濃度(=原尿中の濃度)と時間当たりの尿中排泄量から計算して求めます
具体的には、時間当たりの尿量にその溶質の尿中濃度を血中濃度で割った値を係数としてかければ計算できます
クリアランス検査に用いられる溶質としては、イヌリンのように生体内に自然には存在せず検査のために静注する必要がある外因性クリアランス物質と、クレアチニンのように生理的に血中に存在して検査のために静注する必要はない内因性クリアランス物質の2種類があります
もう一つの原理はGFRマーカーを測定する方法ですが、これは厳密にいえば体表面積当たりのGFR、すなわちeGFRを求める方法です
その生理的溶質の血中濃度を規定する因子が年齢、性別の他には糸球体濾過率だけであるとき、この溶質はGFRマーカーとして血中濃度は体表面積当たりのGFRをおおよそ反映します
この関係が1:1で対応するとすればその回帰曲線から換算式が得られ、これを用いればGFRマーカーの血中濃度から体表面積当たりのGFR、すなわちeGFRを決定することもできます
eGFRを求められる、すなわち換算式が確立しているGFRマーカーとしてはクレアチニンとシスタチンC、eGFRを求める換算式は確立していないGFRマーカーとしてはUNやβ2ミクログロブリンなどを挙げることができます
このうちクレアチニンは内因性クリアランス物質であると同時にGFRマーカーでもあるため、腎機能を推定するために臨床では最も汎用されています
RPFの測定原理とその意義は?
糸球体でも濾過されるがその後に尿細管でも分泌され腎静脈に還流した時にはその血中濃度が0になっているような溶質のクリアランスは時間当たりの腎有効血漿量を反映します
すなわち、時間当たりのそのクリアランス物質の尿中排泄量はその時間内に腎を流れた動脈血中のクリアランス物質の含有量に等しくなるわけで、この関係を式に展開すると、GFR測定時のクリアランス式と同様、時間当たりの尿量にその溶質の尿中濃度を血中濃度で割った値を係数としてかけることで腎血漿流量=RPFが求められます
RPFを求めるためには外因性クリアランス物質であるパラアミノ馬尿酸(PAH)が用いられます
見た目のGFRが高いだけでは、それが機能するネフロンの数が多いからなのか、それともそれぞれの糸球体の濾過効率が高いためなのか、判別することは困難です
このとき、GFRをRPFで割れば、それぞれの糸球体にかかる圧負荷がおおよそ求められ、腎予後の推定や治療の評価に有用です
この指標を濾過係数=Filtration Fractionと呼びます
β2ミクログロブリンの血清濃度と尿中排泄量の意義の違いは?
その産生速度が安定し、かつ血中からの消失がほぼ糸球体濾過に依存するβ2ミクログロブリンはGFRマーカーと見なされ、その血中濃度は体表面積当たりのGFRをおおよそ反映します
しかし糸球体から濾過されたβ2ミクログロブリンは、そのほぼすべてが近位曲尿細管で再吸収された後に上皮細胞内で代謝されてしまうので、排泄された尿中には検出されません
これが検出されるのは、1)糸球体で濾過される、2)近位尿細管で再吸収されない、という2つの条件を満たした場合に限られ、したがって尿中β2ミクログロブリン排泄量は、糸球体障害ではなく、間質尿細管障害のマーカーとして頻用されているのです
どうしてPCR(=スポット尿の蛋白クレアチニン濃度比)は一日尿蛋白量に近似するの?
一日尿蛋白量は一日蓄尿中の蛋白濃度に蓄尿量をかけた値です
この分母と分子にそれぞれ蓄尿中のクレアチニン濃度をかけて展開すると、一日尿蛋白量は一日蓄尿中の蛋白クレアチニン濃度比に一日クレアチニン排泄量をかけた値になります
ここで、1)一日蓄尿中の蛋白クレアチニン濃度比はスポット尿の蛋白クレアチニン比に等しい、2)一日クレアチニン排泄量は1gである、という2つの前提を正しいものと仮定すると、スポット尿の蛋白クレアチニン濃度比は一日尿蛋白量の近似値となります
1)の前提はまあ正しいと考えても差し支えありません
しかし2)の前提は不正確であり、実は一日クレアチニン排泄量は体格に大きく依存するため、これが1gとなるのは体表面積がだいたい1.73m2くらいの人の場合です
すなわちPCRによる一日尿蛋白量の推定値とは、実は体表面積で補正する必要があるのですが、通常していません
病態を評価するためにも、補正はしない方が良いと思います、eGFRのように(笑)
クレアチニンクリアランスは計算できる?
クレアチニンは内因性クリアランス物質ですから、時間当たりの尿量に尿中クレアチニン濃度を血中クレアチニン濃度で割った値を係数としてかければ計算できます
単位はml/minになります
通常は一日蓄尿で計算しますので、時間は1440minになります
一日食塩摂取量は計算できる?
まず一日のNa摂取量は一日の尿中Na排泄量に等しいと仮定します(この仮定はおおむね正しい)
食塩1gあたりのNa含有量は17mEq
よって一日蓄尿量(L/day)に蓄尿中のNa+濃度(mEq/L)をかけて17m(Eq/g)で割れば一日の食塩摂取量(g/day)が計算できます
尿中Na+濃度(mEq/L)は食事の影響を受けて日内で大きく変動するので、一般にスポット尿で代用することはできません
「食塩1gあたりのNa含有量は17mEq」という情報は覚えておかなければならない知識です
pHからH+濃度を推定できる?
pH 7.00 →H+100nmol/L
pH 7.36 →H+ 44nmol/L
pH 7.40 →H+ 40nmol/L
pH 7.44 →H+ 36nmol/L
pHが0.3下がる毎にH+はおよそ2倍になる
pHが1.0下がる毎にH+は10倍になる
以上の6項目を覚えておけば、後は算数で求めることができます
細胞外液のpHがHCO3–とPCO2で規定される理由は?
細胞外液のH+濃度に決定決定的な影響を与えるのが炭酸緩衝系であると仮定するならば(この仮定はおおむね正しい)、Henderson-Hasselbalchの式に炭酸緩衝系を代入してpH = 6.1 + log([HCO3–]/[0.03 x PCO2])の式が求められ、分子のHCO3–と分母のPCO2が2つの規定要因であることが導き出されます
尿細管性アシドーシスの分類とその鑑別は?
集合管のA型介在細胞からのH+ 分泌障害に由来するI型、別名遠位型
近位尿細管上皮細胞のHCO3– の再吸収障害に由来するII型、別名近位型
集合管におけるアルドステロン作動性Na+-K+ポンプの機能抑制とそれに引き続くH+/K+交換輸送の抑制に由来するIV型、別名高K型
以上の3つに分類されます
III型は欠番です
血清K値が低下しないことでIV型はわかります
I型とII型は血清データでは鑑別できません
尿のpHが下がらない、すなわち酸性尿を産生できないのがI型であり、II型では酸性尿を産生することはできます
鑑別のための尿pHのカットオフ値は5.5です
AG(アニオンギャップ)の計算法とその意義は?
AG = (Na+)– (( Cl–) + ( HCO3–)) mEq/L
正常値は12±2 mEq/L
血漿中の陽性荷電分子数と陰性荷電分子数は等しく、かつ陽性荷電分子のほとんどがNa+であると仮定するならば、Na+からCl–とHCO3–を引いた値はCl–とHCO3–以外の通常は測定しない陰性荷電分子に由来することになります
この差が拡大するということは、未知の陰性荷電分子が体内に蓄積している、すなわち未知の陰性荷電物質の産生亢進/排泄遅延が病態の背景にあることを示しています
なお、AG =((Na+) + (K+)) – (( Cl–) + ( HCO3–)) mEq/Lと定義する計算式もあり、より実情に近い未知の陰性荷電分子の値が計算されますが、しかしこの場合はもちろん正常値は変わり、わが国では一般的でありません
体液調節系の2つのシステムとは?
浸透圧調整系:浸透圧受容体→ADH分泌調整+口渇中枢刺激
容量調節系:頚静脈洞や大動脈弓の圧受容体→RAA系刺激+交感神経系刺激
浸透圧調節系は細胞内液+細胞外液の、容量調節系は細胞外液だけの調節を、それぞれ独立に行っています
細胞外液量は容量調節系が調整してくれるので、浸透圧調整系は事実上細胞内液量の調節に寄与しているという考え方もできます
RAA(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン)系が血圧を上昇させるメカニズムは?
アルドステロンによるNa+再吸収促進とアンジオテンシンIIによる血管平滑筋収縮の2つの作用から昇圧作用を示します
すなわち血圧=心拍出量x末梢血管抵抗ですが、アルドステロンの作用は心拍出量を規定する有効循環血漿量を、アンジオテンシンIIの作用は末梢血管抵抗そのものを、それぞれ上昇させるからです
交感神経緊張はなぜ血圧を上昇させる?
1.心拍数の増加
2.心筋収縮力の増加
3.末梢血管収縮
4.腎におけるレニン分泌促進
1, 2は心拍量を増やし、3, 4は末梢血管抵抗を増やすことで、その積である血圧は上昇します
食塩摂取と血圧の関係は?
有効循環血漿量を事実上規定する細胞外液量は、その最大の浸透圧既定因子となる溶質であるNa+の保持量に依存しています
摂取されたNa+を全て腎臓から排泄することができるならば食塩の摂取量は細胞外液量、すなわち血圧に影響を及ぼしません
しかし、摂取したNa+の量に応じてこれを排泄する調整機能が低い腎臓を持つ個体では、食塩摂取量によって血圧が変わってしまいます
これが「食塩感受性高血圧」であり、本態性高血圧患者の1/3程度を占めると推定されています
なお、摂取されたNa+を全て腎臓から排泄できる個体、すなわち血圧が食塩摂取量に作用されない個体においても、身体のNa+保持量と腎臓からのNa+排泄量のバランスには個体差があり、身体のNa+保持量に対して腎臓からのNa+排泄量が相対的に少ない個体は、本態性高血圧の過半数を占める「食塩非感受性高血圧」となります
ちなみに、わが国の高血圧治療ガイドラインにおいて一日食塩摂取量は6g未満であることが推奨されています
これは海からの恵みであり米・野菜・魚介類などとの相性が良い「食塩」に支えられてきたわが国の食文化に、大きな変革を求める提言です
これが本当に健康増進のために有用であるかどうかはひとまず置いておいて、そもそも「健康増進」という錦の御旗があれば社会の食「文化」を壊してしまっても構わないものなのでしょうか?
それは「医療の傲慢」なのではないでしょうか?
答えはわかりません
どうしてこのごろ診察室で血圧を測定しないの?
心血管イベントの発症リスクと関連が深いのは家庭における血圧です
診察室で測定する血圧の30%程度は家庭血圧から大きく逸脱するとされ、その値を信頼して診療を行うことは危険を伴います
ちなみに高血圧治療ガイドラインでは診察室血圧は家庭血圧より5mgHg高いことになっていますが、逆に診察室血圧が家庭血圧よりも低い「仮面高血圧」の症例も無視できない頻度で存在します
以上から、近年は診察室では血圧を測定せず、家庭で測定してきた血圧の記録を参照しながら診療を進める流れが注目を集めています
どうしても病院で血圧を測定したい場合は、リラックスして測定できる工夫を配した特別な部屋を用意する必要があります
急性腎障害=AKIの定義は?
AKIは「数時間から数週間の間の急激な経過によって腎臓の機能の低下をきたす病態」という疾患概念であり、KDIGOによって「48時間以内にCrが0.3 mg/dl以上増加した場合、または以前7日以内に判っていた前値の150%以上に増加した場合、または尿量<0.5ml/kg/hが6時間以上継続した場合」と定義されています
なお、以前7日以内の前値が不明な場合は、予測される基礎値で代行することも可能です
AKI症例をみたらどんな順番で対処する?
まず身体所見、血液生化学(動脈血液ガスを必ず含む)、心電図、胸部レントゲンなどの全身スクリーニングを行い、致死的合併症のリスクがあればこれに速やかに対応します
これが何にも優先する対処です
次に腹部超音波検査を施行して腎後性急性腎障害の有無を確認します
腹部超音波検査は腎萎縮の有無を確認することで慢性腎臓病であるかどうかの鑑別にも有用です
その次に、尿が出ていればその性状を評価することで尿細管機能をおおよそ推定します
尿所見に基づく尿細管機能評価は?
尿細管が機能する場合、尿は水の再吸収を受けてから排泄されるため、その組成は原尿の組成=血漿の組成に比較して浸透圧は高くなります
このため尿細管機能が障害されると一般に尿は薄く大量になります
AKIの定義を満たしかつ尿量が3000ml/dayを超えていれば確実に尿細管機能障害はあると判断できます
ただし逆は真ではなく、尿量が500ml/day未満であるからといって尿細管障害がないとはいえません
尿細管が機能しない場合は水だけでなくNaの再吸収機能も障害されているため、たとえ尿の浸透圧は低くてもNa排泄自体は健常者に比べて多めになります
中でもFENa(Fractional Excretion of Na = Na排泄率)は鑑別にしばしば利用され、1%を上回れば尿細管機能障害があると見なします
FENaは尿中のNa/Cre比を血中のNa/Cre比で割って100をかけ%化した値として求められます
なお、尿中へのNAGやβ2ミクログロブリンの排泄量も尿細管障害のマーカーとして有用ですが、速報性に劣るため、AKI診療への応用には限界があります
造影剤腎症=CINにどう対処する?
eGFR < 45ml/min (CKD stage IIIb)の場合にはCINのハイリスク群であると考えますが、しかしハイリスクとは見なされない症例でもCINが発症する可能性は常にあります
CIN発症予防のためには、何よりも高浸透圧タイプのヨード系造影剤の使用を回避すること、そして等浸透圧タイプであっても使用量を必要最小限にとどめることが肝要です
検査12時間前から12時間後にかけて少量の生理食塩水または重炭酸Na溶液を点滴静注し続けることはCIN発症のリスクをやや軽減させる可能性があります
検査終了後に血液浄化療法でヨード系造影剤を除去してもCINリスクは減少しません
しかしリスクを恐れるあまりに必要な検査までも回避してしまうとクライアントの健康被害リスクをかえって高めてしまいます
術前に十分な情報開示と状況説明を行って、クライアントの検査に対するモチベーションを高めつつCINの覚悟をしておいてもらうことは、何よりものリスクマネージメントです
透析時間は長ければ長いほどいいの?
血液浄化効率だけから考えれば24時間ずっと透析をしていることがベターであるとはいえます
しかし、体外循環を要する今日の血液透析は、その施行時間の間、クライアントの生活・行動を拘束します
これによるQOLの低下と血液浄化効率の改善に伴うQOLの向上をすり合わせることで好ましい透析時間が得られるわけですが、その落としどころには未だにコンセンサスがありません
ましてや、現在の技術では24時間週7回透析し続けたとしても腎臓の機能が全て代償できるわけではありません
以上を勘案すれば、「透析時間は長ければ長いほどいい」という結論を導き出すことは、少なくとも今日の医療事情では時期尚早であるといえるでしょう
腸管と尿毒症の関係は?
蛋白結合型尿毒物質は今日の血液浄化療法では効率よく除去できず、臨床上の大きな問題点となっています
代表的な蛋白結合型尿毒物質であるインドキシル硫酸やパラクレシル硫酸は、その前駆物質が大腸腔内で腸管細菌叢によって産生され、これが吸収された後に肝臓で最終的な尿毒物質となります
その意味で、尿毒症には大腸が大きく関与しているともいえるのです
最近では、腸管細菌叢に治療介入することで尿毒症に対処しようとする試みも報告されています
トレードオフ仮説を説明できる?
慢性腎臓病を機能するネフロンの数が減少した状態であるとします
すると腎臓における25ビタミンD1α水酸化酵素(CYP27B1)の活性総和が低下するため、血中で測定される1α25(OH)2VitD濃度、すなわちホルモンとして作用する1α25(OH)2VitDが低下します
この影響を最も大きく受けるのが小腸におけるCa吸収で、これが障害されるために細胞外液Ca濃度は低下傾向となります
一方、細胞外液の無機P濃度は体外との出納に大きく作用されますが、機能するネフロンの数が減少するだけで出納が正に傾くためその濃度は上昇傾向になります
低Ca血症も高P血症も副甲状腺機能の刺激因子であるためPTHが上昇しますが、そのPTHは血清Ca濃度を上昇させ血清P濃度は低下させる作用を示します
このため、そもそもの引き金となった低Ca血症も高P血症は是正されますが、見た目上はPTHだけが高い状態が残存してしまいます
以上がトレードオフ仮説の概要です
なお、やはり慢性腎臓病病態でその血中濃度が上昇してくる骨細胞由来のホルモンであるFGF23は尿中リン排泄を促進するとともにCYP27B1の活性を抑制するので、上記のトレードオフメカニズムのブースターとして働くことは間違いありません
ただ、FGF23が上昇してくるメカニズムが未だに不詳であるため、これをトレードオフメカニズムの本体に組み込むことに関しては未だにコンセンサスが得られていません
透析アミロイドーシスの主な臨床症状は?
透析アミロイドーシスとはβ2ミクログロブリンを前駆蛋白とするアミロイド線維(=Aβ2Mアミロイド線維)の沈着によって引き起こされるアミロイドーシスの一型の俗称であり、正式名はAβ2Mアミロイドーシスといいます
分類上は限局性のアミロイドーシスとされていますが、実際の症状は全身に及び、全身性アミロイドーシスであるという認識が必要です
有名な症状は運動器関連症状で、手根管症候群、透析脊椎症、破壊性骨関節症、骨嚢胞に伴う脆弱性骨折、関節痛、関節拘縮などは知っておく必要があります
運動器外症状として虚血性腸炎、不整脈などの見られることがあります
慢性腎臓病患者の痒みの3つの機序は?
慢性掻痒症は維持透析患者の56~86%が自覚する頻度の高い病態です
慢性腎臓病病態では、1)表皮が乾燥して薄くなるため掻痒を感知する神経終末が皮膚表面近くにまで進出し外界からの刺激を受けやすくなる、2)未知の尿毒物質が神経終末を刺激したりヒスタミン分泌を増幅させたりする、3)内因性麻薬用物質のバランスが乱れて神経終末からの小さな刺激を脳が増幅して重篤な掻痒感と受け止めてしまう、などのメカニズムが提唱されています
このように機序が一つではないため、治療にも難渋しています
腎機能障害者はどうして貧血になる?
eGFRが30ml/min/1.73m2を切ると高率に重篤な貧血を合併します
腎臓間質におけるエリスロポエチン分泌能の相対的な低下が主因です
しかし、そのほかにも鉄欠乏、鉄利用障害、赤血球寿命の低下なども腎機能障害者にはしばしば認められ、これらも貧血を助長します
いわゆる腎性貧血とは慢性腎臓病患者に認められ他に明らかな原因のない貧血の俗称ですが、エリスロポエチン産生の低下と同義ではないことに注意しましょう
拡散効率を上げて対処すべき病態は?
半透膜を介して溶質組成の異なる2つの溶液が接し合うとき、拡散によって、小分子溶質が移動し、大分子溶質は移動せず、溶媒は動的平衡状態を保つために見た目上は変化しません
すなわち、血液浄化療法で拡散によって対処可能な病態は小分子濃度の異常による病態だけで、具体的には電解質・酸塩基平衡異常、血漿浸透圧の異常、UNやUAなどの小分子蓄積による尿毒症症状などがこれに相当します
なお、クレアチニンも小分子であり、拡散効率を上げればクレアチニン濃度は低下しますが、それによって具体的に臨床症状が改善するかどうかはわかりません(たぶんよくなりません)
限外濾過効率を上げて対処すべき病態は?
溶質組成の異なる2つの溶液が接し合う半透膜に外力が加わると、限外濾過によって、小分子溶質は溶媒とともにその濃度を維持したまま移動し、大分子溶質は移動しません
すなわち、血液浄化療法で限外濾過をかけると、小分子濃度は変わらず、溶媒量=循環血漿量が減少し、大分子濃度が上昇します
これによってベネフィットが得られる病態はうっ血状態です
限外濾過による直接的な除水効果に加えて大分子溶質濃度の上昇=膠質浸透圧の上昇による間質から血管内への水の引き戻しで、病態は効率よく改善されます
なお、限外濾過をかけると一般に中分子溶質の除去効率もよくなりますが、これは膜の孔サイズとの相対的な関係に基づくため、本質的な機能であるとはいえません
拡散によって小分子を調整しつつ限外濾過で水をコントロールすれば、腎機能が廃絶していても当面の生命維持は可能です
ただ、長い目で見てそれだけでよいのか?クライアントのQOLを保つためにそれだけで十分なのか?という議論はつきず、現在も試行錯誤が続けられています
血液濾過透析の仕組みを説明できる?
半透膜を用いた血液浄化を施行する際、血液から見て半透膜の対側に供給される透析液の流速をA、流出する速度をBとします
0<Aなら「半透膜を介して溶質組成の異なる2つの溶液が接し合う」という関係が成立するので、拡散が起きます
またA<Bなら血液側から見て半透膜に向かう陰圧(=外力)がかかるために限外濾過も起こります
これを同時に行う、すなわち0<A,<Bとすれば、拡散と限外濾過が共存する一般的な「血液透析」のモデルとなります、
ここでA<<Bとすると限外濾過量は増えますが、脱血量に対して返血量が著しく不足し、クライアントが循環虚脱に陥ってしまいます
これを防ぐため、回路上の限外濾過の上流でも下流でもよいので、細胞外液類似の組成の輸液を行って穴埋めする血液浄化療法が「血液濾過透析」です
血液濾過透析が血液透析に比べてクライアントにどれだけのメリットをもたらすか、その機序を含めて未だに検証が続けられており、定説はありません
ちなみにA>Bは逆濾過と呼ばれ、細かい目で見ると血液浄化の現場において限定的に起こっています
腹膜透析の利点と欠点は?
腹膜透析は体外循環を利用しません
これが利点であり、欠点にもなります
利点として、1)体外に脱血させずしかも長時間にわたって緩徐に物質交換を行っているため循環器への負担が少ない、2)医療機関への受診回数や診療時間が少なくてすむので生活の自由度が高い、3)導入後の残腎機能の保持期間が長い、等の点が挙げられます
欠点としては、1)腹膜という身体の一部を透析器として用いるため、換えがきかず、腹膜機能が劣化したら中止せざるをえない、2)膠質浸透圧に依存するきわめて弱い限外濾過しかかけられないために溶媒の除去効率が悪く、うっ血病態を改善しにくい、3)本人ないしは家人が習得した手技をきちんと遂行し続けなければならない、等の点が挙げられます
腹膜透析の方が食事や生活の制限が少ない、という意見もありますが、ちょっと言い過ぎかもしれません
確かに腹膜炎は多発しますが、非肺炎性感染症が多いことは血液透析患者も含めた慢性腎臓病患者全体の問題であり、また3)と被る問題でもあります
被嚢性腹膜硬化症という腹膜透析独特の合併症は、病態の理解と予防ノウハウの確立によって、脅威の度合いが下がってきました
腎代替機能を持たない血液浄化療法は?
細胞外液組成に類似な透析液ないしは置換液を用いない血液浄化療法が全てこれに相当します
具体的には血液吸着療法、血漿交換療法などには腎代替機能がありません
CaとPの代謝の共通点と相違点は?
共通点は、1)どちらも小腸で吸収され、2)細胞外液を経てその大半が巨大なストックスペースである骨に貯蔵され、3)遊離したものは腎臓から排泄され、4)副甲状腺がその主要な調整者であることです
相違点は、1)Caの消化管吸収効率は悪く経口摂取してもビタミンDのアシストがないとほとんど吸収されないのに対し、Pは経口摂取すればするほど消化管から吸収される、2)Caは細胞外液以外には事実上骨にしか分布していないのに対し、Pは細胞内液や軟組織にも相当量分布する、3)副甲状腺は細胞外液Ca濃度を上昇させるが、腎における再吸収を阻害することで細胞外液P濃度を低下させる、ことなどです
一見似ているCaとPの代謝ですが、前者は少量吸収・再利用・少量排泄、後者は大量吸収・大量排泄、と、その運用哲学は真逆です
PTH分泌の調節機構を説明できる?
PTHの本質的な機能は細胞外液のCa濃度を低下させないことであり、副甲状腺細胞におけるPTH分泌の最大調節因子も細胞外液のCaです
すなわち、1)細胞外液のCa濃度が十分なレベルに達すると、これを感知した細胞外液Ca感知受容体が副甲状腺細胞内にシグナルを送り、PTHの分泌が抑制されます
2)PTHの本質的な機能は細胞外液のCa濃度を低下させないことであり、その分泌が低下するとPTHの骨作用・腎作用を介して細胞外液Ca濃度は低下します
3)すると今度はこれを感知した細胞外液Ca感知受容体が副甲状腺細胞内にシグナルを送ることを停止するため、ストッパーが外れた副甲状腺細胞はPTHを分泌して、細胞外液のCa濃度が上昇し、1)に戻ります
ミクロのレベルでこの動的平衡が保たれながら細胞外液のCa濃度とPTH分泌は見かけ上の安定を保っています
なお、1α25(OH)2VitDやFGF23などもCaとは独立して副甲状腺細胞のPTH分泌を調節しますが、その影響力はCaに比べればかなり弱いといえます
補正Caの意味がわかる?
Payneの式:補正Ca=血清Ca測定値 + (4.0-Alb) mg/dlで示される補正Ca値とは、「その症例の血清Alb濃度が4.0g/dlであると仮定したときの血清Ca濃度の相対的な立ち位置」というバーチャルな概念です
イオン化Ca濃度の推定値ではなく、そのサンプル血漿中のCa含有量を血漿体積で割った真のCa濃度を超える値が示されることも希ではありません
高Ca血症の原疾患の鑑別は?
低Ca血症と比べると高Ca血症の原疾患は限られており、鑑別は比較的容易で、だからこそフローチャートが作成できるともいえます
高Ca血症の症例を見たら、まずよく問診をとり、原因となる薬剤や健康食品を摂っていないか、日常生活能力はどうかを確認します
次にPTHとPTHrP、1α25(OH)2VitD濃度を測定します
ここまでで95%以上の症例に異常が指摘できるはずです
ここまでで異常がない場合は甲状腺機能亢進症、副腎機能低下症なども鑑別に挙げる必要がありますが、まれに全く原因がつかめない症例も経験します
ちなみにわが国で最も頻度が高いのではないかとされる「骨粗鬆症治療薬の副作用による高Ca血症」は、海外ではほとんど目にすることがありません
逆に米国では高Ca血症原因の第3位である「ミルクアルカリ症候群」にわが国で遭遇することはきわめて希です
CKD-MBD=Chronic Kidney Disease – Mineral and Bone Disorderってどんな疾患?
CKD-MBDとは「心血管や骨の障害を起こすに至りうる慢性腎臓病に伴う全身性のミネラル代謝異常」と定義される2005年に提唱された比較的新しい概念であり、それまで続発性副甲状腺機能亢進症、腎性骨症などと呼ばれていた病態の総称です
その本質は「全身性のミネラル代謝異常」であり、慢性腎臓病に見られる骨代謝疾患が全てCKD-MBDに含まれるというわけではありません