我が国は全人口に対する65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が25%以上を占める長寿大国です。
高齢化に伴い末期腎不全(透析)患者数も年々増加しており、2015年末で32万人に達し、人口当たりの透析患者数は欧米諸国に比べ非常に多く、我が国は透析大国でもあります。
腎臓は尿を産生することで体内へ蓄積する老廃物を捨てたり、体の水分量や電解質を調節したりすることで、人間が生きていくために必要な生体内の環境をベストな状態に維持しています。腎臓ではもともと1分間に約100 mlの血液をろ過することができますが、様々な原因(疾患)により、ろ過量が10 ml/分未満へ低下してしまうと腎不全(尿毒症の状態)となり、永続的な人工透析治療(血液透析であれば、週3回、1回4-5時間の治療)が必要になります。
末期腎不全の前段階(予備軍)である慢性腎臓病患者数も1,300万人と推定され、我が国の成人の8人に1人と非常に多いことがわかっています。慢性腎臓病は腎機能低下(ろ過量 60 ml/分未満)とたんぱく尿によって定義された新しい疾患概念ですが、末期腎不全(透析)になりやすいだけではなく、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患を起こしやすいことが近年明らかになってきています。
慢性腎臓病は高血圧、糖尿病や肥満、喫煙といった生活習慣と同等もしくはそれ以上に、心血管疾患に対する強力な危険因子である可能性があります。
また透析療法には非常に高額の医療費がかかり、慢性腎臓病から末期腎不全(透析)への進行を防ぐことは、個々の患者さんにとってはもちろんのこと日本の医療経済の観点からも非常に重要な課題であります。
以上の観点から、末期腎不全患者数の増加抑制、慢性腎臓病患者さんの生命予後改善および生活の質(QOL)向上を目的としたプロジェクトとして、当講座では「福島慢性腎臓病(CKD)コホート研究」を行っております。
これは福島県内の慢性腎臓病患者さんや高血圧、糖尿病、脂質異常など慢性腎臓病になりやすい患者さん(ハイリスク群)の患者登録制(レジストリ)による総合的な患者データベース構築を基盤とした観察コホート研究で、現在まで約3,000例の患者さんのデータが登録され、心血管イベントの発生状況や慢性腎臓病進行に対する危険因子について疫学的解析を行い、研究成果については関係学会にて報告しています。
今後は慢性腎臓病の発症、進展のリスク因子解析や心血管イベント・死亡のリスク因子解析について、さらに詳細な調査・解析を進め、福島県民へのより良い医療の提供を継続するのはもちろんのこと、慢性腎臓病患者さんのより効果的、効率的治療法や新たな介入ツール・創薬へ応用を進めていきたいと考えています。
“福島から世界へ向けて”慢性腎臓病研究に対するエビデンス発信をともに行いましょう。
AUTHOR
准教授 田中 健一
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腎臓病、透析を専門に大学病院、市中病院で診療・研究を行ってきました。腎臓病は全身の様々な臓器、疾患と深く関わっていることが多く「病とともに人を診る」「全身を診る」、をモットーに患者さんのための医療を提供できるように努めています。現在は、慢性腎臓病を対象とした疫学研究に力を注いでおり、腎不全への進行を防ぐこと、患者さんの健康寿命を延ばすことを目的に福島から世界へ新たなエビデンスの発信を行ってまいります。