留学記 University of California Irvine
腎臓高血圧内科 木村 浩
私は2018年9月から2020年7月までの約2年間、米国のカリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine (以下UCI)), 腎臓高血圧内科(Division of Nephrology, Hypertension, and Kidney Transplantation), Kamyar Kalantar-Zadeh教授の元で研究留学をさせて頂きましたのでご報告させていただきます。
留学中に定期的にブログのような形で経過をお伝え出来れば良かったのですが、そこは私の意思の弱さのせいで実現出来ませんでした‥
皆さんは海外に住みたいと思ったことはありませんか?私は幼少時にロサンゼルスに2年程住んだ経験があり、その時の生活が良い思い出として今も記憶に残っていたため医師として働く以前から漠然と海外で生活したいという気持ちがありました。しかしながら留学については長期間臨床を離れる事や医局の皆様へ多大なご迷惑がかかってしまう事、そして共に医師として働いている妻や小さい子供の事などで不安もありましたが留学することを決断して良かったと思っています。
最後の半年はCOVID-19の影響で完全リモートワークとなり、2週間に1回のラボミーティングのみとなってしまったため、なかなか思うように研究は進まない状況ではありましたが、このような特殊な状況をアメリカで過ごした事も良い経験となったような気がします。前置きが長くなりましたが個人的には充実した2年間を過ごす事が出来たと思うので皆さんにこの経験をシェア出来ればと思います。
(左) UCI Medical Center; (中央) City Tower; (右) 研究室の私の席
まずは職場の環境についてですが、私が通っていたUCI腎臓高血圧内科の研究室はUCIのキャンパスからは離れた場所にあるUCI Medical Centerに隣接したお洒落なCity Towerというオフィスビル内にあり、経験豊富な統計学者や疫学者、データ管理者が在籍し研究内容や統計ソフトの使い方などで悩んだ際に相談に乗ってもらえるありがたい環境でした。(私がいた部屋は窓もなくパソコンが置いてあるだけだったのですが‥)
そして私と同じ立場のVisiting scholarとして様々な国から常時4〜5名程度が研究室に来ていて、またUCIのMPH(Master of Public Health)コースの学生も数名一緒に研究を進めていました。こちらの研究室では各自がそれぞれのテーマについて研究を進めており、それをミーティングで活発なDiscussionを行いながら進めていく形式でしたので、他の人の研究内容を聞いているだけでも勉強になりました。余談になりますが、ミーティングの時はいつもピザとケーキが用意されていたのは流石アメリカ(?)という感じでした。2020年3月終わり以降はアメリカもCOVID-19の感染拡大に伴いラボミーティングはZOOMを用いたオンラインに切り替わり、職場に行くこともままならなかったためラボのメンバーには会ってお別れを出来なかったのは悔いが残っています。
(左上) ラボのメンバーとミーティングにて; (右上) ASN2019 ワシントンにて;
(左下) ZOOMでのラボミーティング; (右下) Dr.KalantarよりCertificate授与
この研究室は米国腎臓システム(United States Renal Data System; USRDS)のSpecial study centerにも選ばれており、主に末期腎不全患者や保存期腎不全患者の大規模データベースを用いた疫学研究や多施設の前向き観察研究を精力的に行っています。また様々な米国内におけるCKD患者の非透析期のコホートをUSRDSのデータと連結することが可能であるため、透析治療に移行する前の状態や治療が透析導入後のアウトカムにどのように影響するかという他では実行する事が難しいテーマについても研究を行っており非常に多くの論文を世に出しています。
私は末期腎不全患者のデータベースにおける血液透析患者から得られた約5万人の世界最大の蓄尿データを用いて、透析患者の残腎機能の低下に影響を及ぼす因子についての研究や、透析患者におけるpolypharmacyとfrailについての関連をみる研究などを行いました。こちらで仕上げた論文は現在投稿中の物とこれから投稿予定の物もあります(2020.8月現在)。大規模データベースを用いた臨床研究の良いところはアイディア次第でいくらでも研究を行う事が可能な点だと思います。
私生活については、留学中に住んでいたアーバインはカリフォルニア州のオレンジカウンティにある都市で、1年のうち8割が晴天と言われるほど天候に恵まれ(本当に毎日晴れるので天気予報は全く気にしなくなります)、夏は気温が上がる日もありますが乾燥しているため日陰に入ると涼しく、日本のような蒸し暑さとは無縁の場所でした。そして計画都市のため町並みがとても綺麗で、治安の面でも全米で最も安全な町 Top10の常連であり、また教育水準も高いことで有名で小さい子供がいても安心して住める環境でした。そういう土地柄のため物価や家賃はすごく高かったのですが(私のアパートは2ベッドルームで2000$/月、これでも同条件の物件と比較すると格安でした)、アメリカは治安の良い場所と悪い場所で街の雰囲気がガラッと変わるので、安全もお金で買う国なのだと改めて日本との違いを感じました。アーバインはアジア人の比率が多いためアジア圏のスーパーやレストランが豊富で日本人にとって住み心地の良い場所だと感じました。ラーメン屋も流行っているのかたくさんあり福島ではお馴染みの喜多方ラーメンの「坂内食堂」も近所に2店も出店されていて驚きました。割高ではありますがちゃんとした日本のラーメンも食べることが出来ました。そして少し前の海外ドラマになりますが、「The O.C.」の舞台となった高級住宅地のニューポート・ビーチが隣町と近く、特にハロウィンやクリスマスの時期はとても個人の家とは思えないほど飾り付けが素晴らしかったです。ハロウィンのときはTrick or Treatをするため、たくさんの子供達が集まっており、うちも子供達を連れてお菓子をもらいに行きました。
またアメリカ西海岸は有名なビーチも多く夕日が素晴らしかったので、時々サンセットを見にビーチにも行きました。少し足を伸ばすとディズニーランドや大谷翔平選手が所属するエンゼルスの本拠地でもあるアナハイムがあり、家族でよく大谷選手の応援にも行きました。ロサンゼルスまでも車で1時間程度と近いので、幼少期に住んでいたアパートにも約30年振りに訪れることも出来ました。
(左上) 綺麗に整備された公園; (右上) エンゼルススタジアムではスクリーンに映りました
(左下) Newport Beach Balboa Islandのハロウィン; (右下) Newport Beachのサンセット
またアメリカといえば素晴らしい国立公園が多く、常々行ってみたいと思っていたので留学中は小さい子供2人を連れて数多くの国立公園へ車で行きました。車で走ってみると本当にアメリカは広大だと実感します。目的地まで2〜3日かけて行くこともざらで、旅行中は毎日6〜7時間運転する事が普通となり、感覚が麻痺してきて車で2時間くらいの距離なら「とても近い!」と感じるようになりました(下の娘が少し大きくなってから頻繁に旅行したので、実質1年間くらいで4万キロくらいは走行したと思います)。そして日本では決して見る事が出来ない光景を家族で見ることが出来て非常に良かったと思います。旅行について語り出すと止まらなくなると思うので、いくつか印象に残った景色や場面などを写真で提示しますので御覧ください。
(左上) Monument Valleyの朝日; (中央上) Canyonlands Mesa Archで逆立ちするSpider-man ;
(右上) Grand Canyon; (左下) Sequoia シャーマン将軍の木; (中央下) Yellowstone Grand prismatic spring; (右下) Bonneville salt flats
最後になりますが、このような素晴らしい機会を得ることができたのは風間教授をはじめ医局の皆様のご理解とご支援、また家族の協力もあって実現出来たことであり、この場を借りて心より御礼申し上げます。そして若い先生方にはこの留学記をみて留学に少しでも興味を持って頂けたら嬉しいですし、私に出来ることがあれば協力します。私自身としては、この留学で得た経験を臨床で活かすべく、そしてより良い研究が出来るよう日々精進していきたいと思います。