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7/23

2021

【3年生の皆さん】試験のポイント

3年生の皆さん、風間先生が最後の講義でお話しした点に加え、以下のポイントについて確認しておいてください。

 

・糖尿病性腎症の疫学、腎組織、臨床経過、治療

・ループス腎炎の疫学、腎組織、治療

・IgA血管炎の症状、腎組織、治療

・急速進行性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)をきたす疾患の種類、臨床経過、合併症

・ネフローゼ症候群の疫学

・ネフローゼ症候群をきたす疾患の種類(一次性、二次性)

・ネフローゼ症候群の合併症、治療法

・微小変化型ネフローゼ症候群の疫学、腎組織、臨床経過、治療、予後

・膜性腎症の疫学、腎組織、臨床経過、治療、予後

・Bartter症候群、Gitelman症候群の違い

・利尿薬の作用点

・CKDのリスクファクター

・遺伝性腎疾患(ファブリー、アルポート、ADPKD)

・糸球体腎炎の症候分類とみられる腎生検所見

9/30

2020

試験の回答と解説

1) Aはミトコンドリアが豊富な尿細管上皮細胞なので、腎皮質にある分節です。近位曲尿細管か遠位曲尿細管のいずれかですが、内腔に向かって刷子縁が発達しているので近位曲尿細管上皮細胞ということになります。Bは絡み合うシダの葉のような足突起が見えるので糸球体上皮細胞です。Cは細胞内に分泌顆粒が見えます。これは分泌前のレニンであり、傍糸球体装置であることがわかります。ミトコンドリアではありませんよ。以上から正解は4になります。

2) AG = Na+-(Cl- + HCO3-) = 145 – (Cl-+ 10) = 18であり、AGの正常値は10-14程度ですから、18という値は明らかに開大しています。また、式を展開するとCl- = 117という値が得られ、これもまた正常値より明らかに高値です。したがって正解は4です。なお、HCO3-が著しく低下しているのでこの症例は代謝性アシドーシスです。pCO2が低いので呼吸数は上昇しているはずです。動脈血液ガス所見から血圧は推定できません。

3) 男性のCrに基づくeGFR値は 194×Cr-1.094×年齢-0.287  (ml/min/1.73m2)と示され、女性の場合はこれに0.739の係数がかかります。すなわち、eGFRを規定する変数は、血清Cr濃度、年齢、性別の3点だけなのです。年齢・性別が同じなら、同じ血清Cr濃度の人は体格に関係なく同じeGFR値を示します。また、同じeGFR値なら、体格が大きいほど実際のGFRは高くなるはずです。同じ血清Cr濃度である場合、eGFR値は加齢に伴って低下し、また女性は男性よりも低値となります。したがって正解は1です。

4) これは日本高血圧学会診断基準2019の通りで正答は5です。III度高血圧は収縮期と拡張期のいずれかが基準を満たせば診断が確定します。なお、この診断基準では低血圧は定義されていません。

5) これもKDIGO定義の通りで、正解は3です。Cr値の上昇と乏尿・無尿のいずれかを満たせば診断確定なので、その片方が満たされないだけでは診断自体を否定できません。逆に、片方を満たしただけでも診断は確定します。

6) 透析アミロイドーシスはβ2ミクログロブリンを前駆蛋白とするAβ2Mアミロイド線維が全身に蓄積する疾患です。β2ミクログロブリンが沈着するわけではありません。また、紛らわしいですが、アルツハイマー型認知症で脳に沈着するアミロイドβとも違います。手根管症候群などの運動器症状を呈しやすいのが特徴ですが、骨・関節外にも多彩な症状をきたします。ただし、近年は減少傾向にあるという意見が主流です。正解は5です。

7) 拡散は小分子溶質濃度を調整しますが体液量は変えられず、限外濾過は逆に体液量を調整しますが小分子溶質濃度は調整できません。ですからうっ血に対しては限外濾過、酸塩基平衡障害に対しては拡散を強化するのが基本です。全身の循環動態が不安定な場合は血液浄化時間を延長して除水速度を落とします。それでもまだ危険な場合は体外循環を避け、腹膜透析を選択します。血管アクセスが不良な場合にも体外循環を避けて腹膜透析を選択することがあります。正解は5です。

8) 甲状腺機能亢進症は時に高Ca血症を誘発しますが、低下症では高Ca血症は起こりません。重症膵炎では時に重篤な低Ca血症が見られます。他は全て高Ca血症の背景病態として有名です。正解は4です。

9) CaとPはいずれも十二指腸~空腸で吸収され、この反応は活性型ビタミンDによって促進されます。ミネラル代謝のコントロールタワーである副甲状腺細胞のCa感知受容体に作用しますが、Caが作用すると結果として副甲状腺ホルモン=PTHの分泌は低下しますが、Pが作用すると逆に分泌は増加します。尿細管にPTHが作用すると、Caの再吸収は促進されますが、逆にPの再吸収は著しく抑制されます。どちらも多くは骨に局在していますが、Caは全体の99%以上であるのに対し、Pはたかだか85%くらい、すなわち骨外にもそこそこ分布しています。正解は4です。

10) 日本骨粗鬆症学会の診断基準通りです。骨塩量の情報なしで診断できるのは主要骨折=脊椎圧迫骨折または大腿骨近位部骨折のみです。骨粗鬆症診断男性の診断を行う際にも若年女性平均が比較対象値となります。以上から、正解は4となります。

11) 骨粗鬆症の危険因子はたくさんあり、るい痩もその一つですが、肥満はむしろ骨量を増やす方向に作用します。正解は5です。

12) 骨粗鬆症の誘発因子と転倒の誘発因子がいずれも脆弱性骨折の危険因子であると見なされます。正解は2です。交通外傷の多くは高エネルギー外傷ですから、通常これに伴う骨折は脆弱性骨折と見なされません。

9/2

2020

留学記 University of California Irvine

留学記 University of California Irvine

腎臓高血圧内科 木村 浩

 

私は2018年9月から2020年7月までの約2年間、米国のカリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine (以下UCI)), 腎臓高血圧内科(Division of Nephrology, Hypertension, and Kidney Transplantation), Kamyar Kalantar-Zadeh教授の元で研究留学をさせて頂きましたのでご報告させていただきます。

 

留学中に定期的にブログのような形で経過をお伝え出来れば良かったのですが、そこは私の意思の弱さのせいで実現出来ませんでした‥

 

皆さんは海外に住みたいと思ったことはありませんか?私は幼少時にロサンゼルスに2年程住んだ経験があり、その時の生活が良い思い出として今も記憶に残っていたため医師として働く以前から漠然と海外で生活したいという気持ちがありました。しかしながら留学については長期間臨床を離れる事や医局の皆様へ多大なご迷惑がかかってしまう事、そして共に医師として働いている妻や小さい子供の事などで不安もありましたが留学することを決断して良かったと思っています。

 

最後の半年はCOVID-19の影響で完全リモートワークとなり、2週間に1回のラボミーティングのみとなってしまったため、なかなか思うように研究は進まない状況ではありましたが、このような特殊な状況をアメリカで過ごした事も良い経験となったような気がします。前置きが長くなりましたが個人的には充実した2年間を過ごす事が出来たと思うので皆さんにこの経験をシェア出来ればと思います。

(左) UCI Medical Center; (中央) City Tower; (右) 研究室の私の席

 

まずは職場の環境についてですが、私が通っていたUCI腎臓高血圧内科の研究室はUCIのキャンパスからは離れた場所にあるUCI Medical Centerに隣接したお洒落なCity Towerというオフィスビル内にあり、経験豊富な統計学者や疫学者、データ管理者が在籍し研究内容や統計ソフトの使い方などで悩んだ際に相談に乗ってもらえるありがたい環境でした。(私がいた部屋は窓もなくパソコンが置いてあるだけだったのですが‥)

そして私と同じ立場のVisiting scholarとして様々な国から常時4〜5名程度が研究室に来ていて、またUCIのMPH(Master of Public Health)コースの学生も数名一緒に研究を進めていました。こちらの研究室では各自がそれぞれのテーマについて研究を進めており、それをミーティングで活発なDiscussionを行いながら進めていく形式でしたので、他の人の研究内容を聞いているだけでも勉強になりました。余談になりますが、ミーティングの時はいつもピザとケーキが用意されていたのは流石アメリカ(?)という感じでした。2020年3月終わり以降はアメリカもCOVID-19の感染拡大に伴いラボミーティングはZOOMを用いたオンラインに切り替わり、職場に行くこともままならなかったためラボのメンバーには会ってお別れを出来なかったのは悔いが残っています。

(左上) ラボのメンバーとミーティングにて; (右上) ASN2019 ワシントンにて;

(左下) ZOOMでのラボミーティング; (右下) Dr.KalantarよりCertificate授与

 

この研究室は米国腎臓システム(United States Renal Data System; USRDS)のSpecial study centerにも選ばれており、主に末期腎不全患者や保存期腎不全患者の大規模データベースを用いた疫学研究や多施設の前向き観察研究を精力的に行っています。また様々な米国内におけるCKD患者の非透析期のコホートをUSRDSのデータと連結することが可能であるため、透析治療に移行する前の状態や治療が透析導入後のアウトカムにどのように影響するかという他では実行する事が難しいテーマについても研究を行っており非常に多くの論文を世に出しています。

 

私は末期腎不全患者のデータベースにおける血液透析患者から得られた約5万人の世界最大の蓄尿データを用いて、透析患者の残腎機能の低下に影響を及ぼす因子についての研究や、透析患者におけるpolypharmacyとfrailについての関連をみる研究などを行いました。こちらで仕上げた論文は現在投稿中の物とこれから投稿予定の物もあります(2020.8月現在)。大規模データベースを用いた臨床研究の良いところはアイディア次第でいくらでも研究を行う事が可能な点だと思います。

 

私生活については、留学中に住んでいたアーバインはカリフォルニア州のオレンジカウンティにある都市で、1年のうち8割が晴天と言われるほど天候に恵まれ(本当に毎日晴れるので天気予報は全く気にしなくなります)、夏は気温が上がる日もありますが乾燥しているため日陰に入ると涼しく、日本のような蒸し暑さとは無縁の場所でした。そして計画都市のため町並みがとても綺麗で、治安の面でも全米で最も安全な町 Top10の常連であり、また教育水準も高いことで有名で小さい子供がいても安心して住める環境でした。そういう土地柄のため物価や家賃はすごく高かったのですが(私のアパートは2ベッドルームで2000$/月、これでも同条件の物件と比較すると格安でした)、アメリカは治安の良い場所と悪い場所で街の雰囲気がガラッと変わるので、安全もお金で買う国なのだと改めて日本との違いを感じました。アーバインはアジア人の比率が多いためアジア圏のスーパーやレストランが豊富で日本人にとって住み心地の良い場所だと感じました。ラーメン屋も流行っているのかたくさんあり福島ではお馴染みの喜多方ラーメンの「坂内食堂」も近所に2店も出店されていて驚きました。割高ではありますがちゃんとした日本のラーメンも食べることが出来ました。そして少し前の海外ドラマになりますが、「The O.C.」の舞台となった高級住宅地のニューポート・ビーチが隣町と近く、特にハロウィンやクリスマスの時期はとても個人の家とは思えないほど飾り付けが素晴らしかったです。ハロウィンのときはTrick or Treatをするため、たくさんの子供達が集まっており、うちも子供達を連れてお菓子をもらいに行きました。

またアメリカ西海岸は有名なビーチも多く夕日が素晴らしかったので、時々サンセットを見にビーチにも行きました。少し足を伸ばすとディズニーランドや大谷翔平選手が所属するエンゼルスの本拠地でもあるアナハイムがあり、家族でよく大谷選手の応援にも行きました。ロサンゼルスまでも車で1時間程度と近いので、幼少期に住んでいたアパートにも約30年振りに訪れることも出来ました。

(左上) 綺麗に整備された公園; (右上) エンゼルススタジアムではスクリーンに映りました

(左下) Newport Beach Balboa Islandのハロウィン; (右下) Newport Beachのサンセット

 

またアメリカといえば素晴らしい国立公園が多く、常々行ってみたいと思っていたので留学中は小さい子供2人を連れて数多くの国立公園へ車で行きました。車で走ってみると本当にアメリカは広大だと実感します。目的地まで2〜3日かけて行くこともざらで、旅行中は毎日6〜7時間運転する事が普通となり、感覚が麻痺してきて車で2時間くらいの距離なら「とても近い!」と感じるようになりました(下の娘が少し大きくなってから頻繁に旅行したので、実質1年間くらいで4万キロくらいは走行したと思います)。そして日本では決して見る事が出来ない光景を家族で見ることが出来て非常に良かったと思います。旅行について語り出すと止まらなくなると思うので、いくつか印象に残った景色や場面などを写真で提示しますので御覧ください。

(左上) Monument Valleyの朝日; (中央上) Canyonlands Mesa Archで逆立ちするSpider-man ;

(右上) Grand Canyon; (左下) Sequoia シャーマン将軍の木; (中央下) Yellowstone Grand prismatic spring; (右下) Bonneville salt flats

 

最後になりますが、このような素晴らしい機会を得ることができたのは風間教授をはじめ医局の皆様のご理解とご支援、また家族の協力もあって実現出来たことであり、この場を借りて心より御礼申し上げます。そして若い先生方にはこの留学記をみて留学に少しでも興味を持って頂けたら嬉しいですし、私に出来ることがあれば協力します。私自身としては、この留学で得た経験を臨床で活かすべく、そしてより良い研究が出来るよう日々精進していきたいと思います。

 

9/1

2020

Clinical and Experimental Nephrologyベストサイテーション賞

皆さんこんにちは。
コロナ禍の中、なかなか明るい話題も少ないですが、今回は明るい話題をお届けしたいと思います!

 

田中 健一 准教授の論文がClinical and Experimental Nephrology(CEN)のベストサイテーション賞を受賞しました。

 

この賞は、創刊から現在までに CEN で発表された論文のうち、当該年中に最も多 く引用された Review article と Original article それぞれ1編に授与される賞で、Original articleから田中先生の論文が選出されています。

 

田中先生、明るい話題を提供していただきありがとうございました!本当におめでとうございます!!

 

Original article
田中 健一(福島医科大学腎臓高血圧内科)
【Clin Exp Nephrol 2015:19;1044–1053】

8/15

2020

【2020年】3年生向け:腎臓高血圧内科試験のための復習ポイント【その④】

直前の復習ポイント

  • 糸球体上皮細胞と糸球体内皮細胞を見分けられる?
  • ミトコンドリアの多い尿細管分節はどこ?
  • 分泌顆粒を持った尿細管分節はどこ?
  • 動脈血液ガス所見はきちんと読める?
  • アニオンギャップ(AG)は計算できる?
  • eGFRとGFRの違いを正確に説明できる?
  • 日本高血圧学会診断基準2019はしっかり覚えた?
  • KDIGO定義に則って急性腎障害を診断できる?
  • 透析アミロイドーシスってどんな病気?
  • 症状に応じた腎代替療法の適応やメニュー変更ができる?
  • 血液浄化療法における拡散と限外濾過の意味は?
  • 高Ca血症の原疾患をいくつ挙げられる?
  • 全身のCa代謝とP代謝の概要を説明できる?
  • 日本骨粗鬆症学会の診断基準はきっちり覚えた?
  • 骨粗鬆症の危険因子ってなんだったっけ?たくさんあるよ
  • 脆弱性骨折の危険因子ってなんだったっけ?たくさんあるよ

8/1

2020

【2020年】3年生向け:腎臓高血圧内科試験のための復習ポイント【その③】

  • 体液調節系の2つのシステムとは?
  • RAA系が血圧を上昇させるメカニズムは?
  • 交感神経緊張はなぜ血圧を上昇させる?

体液は浸透圧調節系と容量調節系の2つの独立したシステムによって制御されています。視床下部にある浸透圧受容体がセンサーとなって細胞外液の浸透圧を感知し、下垂体後葉からの抗利尿ホルモン=ADH=バソプレシンの分泌を調整します。ADHは腎の集合管V2受容体に結合し、細胞質内の水チャンネルを尿細管管腔側細胞膜に異動させると、強力な浸透圧勾配のために水再吸収が促進され、尿量が低下します。浸透圧受容体の刺激は同じく視床下部に局在する口渇中枢に作用して飲水行動も惹起させます

一方、頸動脈同、大動脈弓、心房、心室、傍糸球体装置などに散在する圧受容体は血管内圧を感知し、交感神経/副交感神経の緊張を制御します。交感神経の緊張は心拍出量を増加させ有効循環血漿を増加させると同時に末梢血管抵抗を増大させることによって血圧を上昇させます。

交感神経の緊張は傍糸球体装置細胞におけるレニン分泌も促進させ、ここを起点としてレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系も賦活化されます。

RAA系ではアンジオテンシンIIが強力な血管収縮作用をもたらすと同時に、その下流のアルドステロンは集合管におけるNa吸収を促進して有効循環血漿量を増加させ、この合わせ技で血圧が上昇します。

このように容量調節系は有効循環血漿、すなわち細胞外液調節がその主目的です。

これに対して浸透圧調節系は細胞外液の浸透圧を起点にして動き始めますが、細胞内液と細胞外液の浸透圧は等しいので、細胞内液・外液に通じる調整系です。このうち細胞外液は容量調節系によってきっちり制御されているので、実質的に浸透圧調整系は細胞内液を制御するためのシステムだと言っても間違いではないでしょう

建前上、浸透圧調節系と容量調節系はお互いに独立した調整系であるとされていますが、この二者は一部連携しており、完全に独立とは言えません。

 

 

  • 食塩摂取と血圧の関係は?

食餌から摂取したNaの多くは細胞外液に分布し、これによって細胞外液の浸透圧が上昇するとADH分泌の促進と飲水行動の誘発によって細胞外液が増加します。この結果、圧受容体が刺激されると交感神経緊張が緩み、レニン分泌が阻害され、アルドステロン依存性のNa再吸収が停止することで利尿が進み、有効循環血漿量の低下に伴って血圧は復帰します。

この後者の反応の速度には個人差があり、有効循環血漿量が戻り切らないうちに食塩の追負荷が加わると血圧は高い領域で安定化してしまう

これが食塩感受性高血圧のメカニズムである

ただし、高血圧患者における食塩感受性高血圧の割合は高くなく、非食塩感受性高血圧の半分ほどである

尤も、食塩感受性高血圧と食塩非感受性高血圧ははっきり白黒つけられるようなものではなく、グレーゾーンの症例も多いことから、一般に集団内で食塩摂取を制限するとその集団の血圧は低下します

 

 

  • 新しい高血圧の診断基準は覚えたかな?

百聞は一見に如かず、診断基準の表はよく覚えておきましょう

 

 

  • 急性腎障害=AKIの定義は?

48時間以内にCrが0.3 mg/dl以上増加した場合

またはCrが「以前7日以内に判っていた前値」の150%以上に増加した場合

または尿量<0.5ml/kg/hが6時間以上継続した場合

ただし「以前7日以内に判っていた前値」は予測される基礎値で代行することも可能

 

 

  • AKI症例をみたらどんな順番で対処する?
  • 尿所見に基づく尿細管機能評価は?
  • 高K血症、うっ血性心不全、代謝性アシドーシスなどの致死的合併症をスクリーニングし、必要に応じて対応する
  • 超音波検査にて尿路閉塞(=腎後性腎不全)、腎萎縮(=慢性腎臓病)をスクリーニングし、必要に応じて対応する
  • 尿量・尿浸透圧/比重、尿中Na濃度などから尿細管機能を判定する
  • 尿蛋白、沈査など尿所見を評価する

特に覚えておくべきはFENa(=Fractional Excretion of Na)です。FENaはNaの再吸収効率の指標であり、FENa>1の場合はNaがあまり再吸収されていない、すなわち尿細管機能障害がある、と考えます。

一般に尿細管機能障害や尿所見異常(≒糸球体障害)が軽微であるほど腎性ではなく腎前性腎不全の可能性が高いとされています。ですが、実際には腎性と腎前性は併存していることが多く、必ずしもクリアカットに分けられるものではありません(でも国試ではクリアカットに分けられることになっています(笑))

 

 

  • 造影剤腎症=CINにどう対処する?

eGFR<45 ml/min/1.73m2の症例は高リスクと考え、可能ならば造影剤の使用は回避します

高リスク症例に造影が必要な際は、等浸透圧性の造影剤を、できるだけ少量用います

検査前後に生理食塩水または重炭酸Na溶液を補液することはCINのリスクを軽減させる可能性があります(必ずしもコンセンサスはありません)

検査後に血液浄化によって造影剤を除去することはCINの発症リスクを軽減しません

高齢者、糖尿病、AKIの既往などもCINの発症リスクを増大させます

しかし、リスク因子が皆無でもCINの発症を否定できるものではありません。全ての症例に対して、CINのリスクと、そのリスクを負ってでも造影検査を行うことのメリットを十分に情報開示し、患者・家族が納得した上で検査に対して高いモチベーションで臨んでもらうよう準備することが何よりも大切です

 

 

  • 尿毒物質を三種類に分けるとしたら?

透析膜を介して拡散で容易に除去できる「小分子」、拡散では抜けにくく限外濾過を強くかけないと抜けない「中分子」、分子サイズ自体は拡散でも容易に抜けるほど小さいにもかかわらず血漿蛋白と結合しているために実際には抜きにくい「蛋白結合型分子」の3つに大別できます

もともと「小分子」と「中分子」は分子サイズ10000Da程度を境界とすると認識されていましたが、昨今の透析膜はパフォーマンスが良好になり、実際は分子サイズ20000Daくらいまでは拡散で抜けるようになりました。したがって「小分子」と「中分子」の境界は不明瞭になり、実際に近年の透析患者では中分子に由来する尿毒症状は軽症化しています。一方、「蛋白結合型分子」を効率的に除去できる血液浄化療法はまだ開発されていません。

 

 

  • 腸管と尿毒物質の関係は?

消化管から吸収されるアミノ酸の分解産物の中には、腎臓で排泄を受けず血中に蓄積すると毒素として作用してしまうものがあります。好例はインドキシル硫酸です。インドキシル硫酸はアミノ酸であるトリプトファンを起点とし、これが腸管細菌の作用でインドールとなり吸収されると肝臓でインドキシル硫酸となります。腎臓の機能が低下すると、蓄積したインドキシル硫酸は様々な細胞に取り込まれ、そこで酸化ストレス促進因子として作用し、臓器障害を引き起こす「尿毒物質」となります。このインドキシル硫酸は蛋白結合型尿毒素ですが、生理状態ではどうやって腎臓がこれを無毒化しているのかはまだよくわかっていません。そんなわけで、慢性腎臓病患者でも血中のインドキシル硫酸濃度を低下させる方法は確立できないままです。腸管細菌にアプローチして、前駆物質であるインドールの産生を阻害すれば良いのではないか?という意見もあります。

 

 

  • トレードオフ仮説を説明できる?

慢性腎臓病によって機能するネフロンの数が減少するとしましょう。

これによって血中の25水酸化ビタミンDが尿細管で1α水酸化されなくなり、その結果、消化管Ca吸収が決定的に低下します。この結果、血清Ca濃度は低下します。

一方、ネフロン数の減少はPの排泄障害を誘発し、これによって血清P濃度は上昇します。

CaとPはいずれも副甲状腺細胞のCa感知受容体に結合しますが、血清Ca濃度の低下、P濃度の上昇はいずれもPTHの分泌を促進します。するとPTHは骨と腎臓に作用してCaを上げPを下げるわけですから、上記の変化が代償されCaとPは正常化します。

というわけで、慢性腎臓病が進行した状況では一見CaやPは正常域内に留まって見えますが、その代わりにPTHだけが上昇してしまうのです。

これがトレードオフ(=代償)のメカニズムです。

 

 

  • 透析アミロイドーシスの主な臨床症状は?

Aβ2Mアミロイド線維は全身に沈着しますが、公式には透析アミロイドーシス(Aβ2Mアミロイドーシス)は局所アミロイドーシスに分類されています。運動器、特に大関節の滑膜に沈着しやすいからです。主な運動器症状として手根管症候群、透析脊椎症、骨嚢胞、関節拘縮などが見られます。破壊性脊椎関節症は透析脊椎症の一型と見なすことができます。また、骨嚢胞はしばしば脆弱性骨折の原因ともなります。

骨・関節外症状として、徐脈性不整脈、腸管運動障害、皮膚剥離、巨舌などが見られることもあります。

 

 

  • 腎機能が障害されるとなぜ貧血になる?

いわゆる腎性貧血の主因は腎臓におけるエリスロポエチン分泌の相対的低下です。ただし、それは唯一の原因ではありません。腎機能が障害されると、赤血球寿命が短縮します。また、特に透析患者では、鉄も欠乏しがちです。

 

 

  • 拡散効率を上げて対処すべき病態は?

拡散は濃度勾配(浸透圧勾配)を駆動力として半透膜の孔サイズより十分に小さなサイズの溶質が半透膜を通過する現象です。拡散効率を強化するということは、小分子の溶質の制御効率を上げるということですから、これが功を奏する代表はミネラル代謝異常(特に高K血症や低Ca血症)と酸塩基平衡異常(=H+の蓄積)です。

 

 

  • 限外濾過効率を上げて対処すべき病態は?

限外濾過は外力を駆動力として半透膜の孔サイズより十分に小さなサイズの溶質が溶媒ともども半透膜を通過していく現象です。拡散効率を強化するということは、小分子の溶質の制御効率を上げるということですから、これが功を奏する代表はミネラル代謝異常(特に高K血症や低Ca血症)と酸塩基平衡異常(=H+の蓄積)です。溶質の調整は拡散が得意とするところですが、溶媒量を調整できるのは限外濾過だけです。したがって限外濾過効率を上げて対処すべき病態とは、溶媒=水が過多である浮腫・うっ血・心不全・肺水腫などになります。

 

 

  • 血液濾過透析の仕組みを説明できる?

透析器には側面に透析液の入口と出口がありますが、ここに入ってくる透析液の速度をA、出ていく透析液の速度をBとしましょう。この透析液は血液とは半透膜(=透析膜)を挟んだ対側を流れます。このときA<Bならば透析液が半透膜を介して血液に接している、すなわち拡散が起こるだけでなく、血液側から透析液側に引っぱる外力もかかるので限外濾過も起こります。これが通常の血液透析です。ここでA<<<Bとすると血液側から透析液側に引っ張る力はより強くなり、限外濾過効率はあがります。しかし、そのままでは身体から体外循環に取り出す血液量に比べて体外循環から身体に戻る血液量が少なくなりすぎてしまうため、この状況を続けていると有効循環血漿量が減ってしまいます。そこで、透析器の前、あるいは後ろで補液を行って有効循環血漿量の維持を図るのです。この治療モードを血液濾過透析=hemodiafiltration = HDFと呼びます。ICUなどで行われる急性血液浄化療法であるCHDFも回路デザインは同じです。

 

 

  • 腹膜透析の利点と欠点は?

腹膜透析は体外循環を用いません。しかも24時間ゆっくりと血液浄化を行えます。したがって体外循環や間欠的血液浄化の負荷に耐えられない重度の心機能障害患者にも適用可能な優しい治療法です。また、腹膜透析患者は導入後も尿量が減りにくいという特徴もあります。

ただし、腹膜透析の血液浄化効率は良くありません。溶質除去効率も、除水効率も、血液透析には及びません。体外循環の負荷に耐えられない重度心不全患者にも腹膜透析は適用できますが、しかし除水効率の悪い腹膜透析によってその心不全状態から脱却することは難しいのです。また、腹膜は生身の人間の身体の一部ですから、必ず劣化します。10年も継続して行うことはできません。

腹膜透析は2週間に1回くらい通院すればよいだけなので、週3回の通院を要する血液透析に比較すれば生活の自由度が高く、働く現役世代には都合が良いという意見もあります。しかし、一日に数回の液交換を必要とする腹膜透析が、必ずしも常に自由度が高いともいえません。働くためには夜間透析や家庭透析の方が便利であるという感じる人もいるでしょう。また、腹膜透析には厳しい食事制限が要らないという意見を言う人もいますが、除水効率の悪い腹膜透析ではかえって溢水を起こすリスクが高く、本当は厳しい食事制限が必要なのかもしれません。このあたりは一概に優劣関係があるとは言えないように思います。

 

 

  • CaとPの代謝の共通点と相違点は?
  • PTH分泌の調節機構を説明できる?

CaもPも小腸から生体内に取り込まれ、その大半は骨に貯蔵されています。Pは約85%、Caに至っては99.9%以上です。どちらも尿を介して腎臓から排泄されます。小腸からの吸収は活性型ビタミンDによって促進されます。ただし、吸収効率の悪いCaは活性型ビタミンDで後押ししないと消化管吸収が決定的に低下しますが、Pはこの後押しがなくてもあまり問題がないレベルまで吸収されます。

副甲状腺細胞などに発現しているCa感知受容体(Ca-sensing receptor = CaSR)には、CaだけでなくPも結合します。副甲状腺細胞のCaSRにCaが結合すると副甲状腺ホルモン=PTHの分泌は抑制されますが、Pが結合すると逆にPTHの分泌は促進されます。PTHは骨に作用して骨リモデリングの刺激となり、まず破骨細胞性骨吸収によってCaとPを共に骨から細胞外液に放出します。このときPTHは同時に腎臓にも作用し、Pの再吸収を抑制することでP利尿を進め血清P濃度を低下させますが、Caの再吸収は促進するので血清Ca濃度は上昇します。すなわち、PTHはストックスペースである骨からCaとPを取り出しますが、そのうちPは尿中に捨ててしまうので、結局Caだけを細胞外液に補給することになります。これはCaが低くてもPが高くても誘発される反応です。

 

 

  • 高Ca血症の原疾患の鑑別は?

血清Ca濃度が異常に高くなるには、1)Caの再利用効率が異常に亢進する、2)Caの取り込み=消化管吸収効率が異常に亢進する、3)血清Ca濃度を感知するシステムが故障する、の3つのメカニズムのいずれかが原因です。

1)の代表的病態として、原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(Humoral Hypercalcemia with Malignancy = HHM = 腫瘍から分泌されるPTHrPによるparaneoplastic syndromeの一つ)が挙げられ、教科書的にはこの2つで高カルシウム血症全体の90%を占めるとされます。

しかしわが国では2)のメカニズムを起こす活性型ビタミンD製剤の過剰使用が高カルシウム血症の第一の原因であると考えられています。他にサルコイドーシス、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能低下症、リチウム中毒、寝たきり状態、なども高カルシウム血症の原因となります。

なお、逆に低カルシウム血症を引き起こす病態といえば、キャラの立った劇症膵炎は和れず覚えておきたいところですね。

 

 

  • CKD-MBDってどんな疾患?

腎臓は全身のミネラル代謝の要となる臓器であり、その機能を失った慢性腎臓病患者には副甲状腺機能異常、骨代謝異常、軟部組織石灰化など多彩なミネラル代謝障害が発症します。これらを総称して一つの不可分な疾患概念と捉えたものがChronic Kidney Disease-Mineral Bone Disorder = CKD-MBDです。具体的には「骨や心血管の異常を呈すに至る慢性腎臓病に伴う全身性ミネラル代謝異常」と定義され、検査値の異常・骨代謝の異常・軟部組織石灰化という3つのコンポーネントから成ります。

 

 

  • 骨粗鬆症の診断基準は?
  • 腰椎、股関節、橈骨のいずれかの骨密度が若年女性平均(Young Adult Mean =YAM)値の70%未満ないしは-2.5SD未満
  • 脆弱性非主要骨折(脊椎あるいは大腿骨近位部以外の骨折)の既往があり、かつ腰椎、股関節、橈骨のいずれかの骨密度が若年女性平均YAM値の70%以上80%未満
  • 脆弱性主要骨折(脊椎あるいは大腿骨近位部の骨折)の既往がある

上記1)~3)のいずれかを満たしたものは骨粗鬆症であると診断できる

 

 

  • 転倒のリスクファクターにはどんなものが挙げられる?

サルコペニア・フレイル

神経疾患:特にパーキンソン病/症候群・レビー小体型認知症

泌尿器科疾患:特に夜間頻尿を引き起こす状態、前立腺疾患治療後

視力障害、平衡障害、貧血、不眠症・不眠治療中

不適切な履物、部屋内の整理整頓の不備、杖の不使用

 

 

  • 骨粗鬆症のリスクファクターにはどんなものが挙げられる?

加齢、るい瘦、閉経後女性、慢性腎臓病、上部消化管手術後、肝硬変、糖尿病、副甲状腺疾患、甲状腺疾患、副腎皮質ステロイド治療、閉塞性肺疾患、前立腺疾患治療後、寝たきり状態、動脈硬化症(特に大血管石灰化を伴う動脈硬化)

7/30

2020

【2020年】3年生向け:腎臓高血圧内科試験のための復習ポイント【その②】

3年生の皆さん、試験のポイントについての続報です!!

==

・血漿浸透圧の求め方

・低Na血症の症状、分類、分類ごとの治療法

・SIADH

・高K血症の治療

・糖尿病性腎症の疫学、腎組織、臨床経過、治療

・ループス腎炎の疫学、腎組織、治療

・IgA血管炎の症状、腎組織、治療

・急速進行性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)をきたす疾患の種類、臨床経過、合併症

・ネフローゼ症候群の定義

・ネフローゼ症候群をきたす疾患の種類(一次性、二次性)

・ネフローゼ症候群の合併症、治療法

・微小変化型ネフローゼ症候群の疫学、腎組織、臨床経過、治療、予後

・膜性腎症の疫学、腎組織、臨床経過、治療、予後

・講義で扱った復習問題や症例についてよく見返すこと

・Bartter症候群、Gitelman症候群

・利尿薬の作用点

・CKDのリスクファクター

・遺伝性腎疾患(ファブリー、アルポート、ADPKD)

・糸球体腎炎の症候分類とみられる腎生検所見

 

試験は大変だと思いますが、講義プリントをよく復習して下さい!!

応援しています!!!

7/16

2020

【2020年】3年生向け:腎臓高血圧内科試験のための復習ポイント

3年生の皆さん

今年も試験のための復習ポイントを公開します!!

随時更新していく予定ですので、確認した人は他の人にも教えてあげてください!

=====

  • 血液尿関門の構造は?
  • 内皮細胞・上皮細胞・メサンギウム細胞を見分けられる?

血液尿関門は、糸球体において血管とボウマン腔を隔てる障壁となる構造です

ボウマン腔はそのまま尿細管腔を経て尿管→膀胱→尿道→体表へと連続しますので、すなわち血液尿関門は体内と体外を隔てる壁だと考えても良いです

血液尿関門は内側から糸球体血管内皮細胞→基底膜→糸球体上皮細胞の三層構造をしています

糸球体血管内皮細胞、別名有窓細胞には細かい穴が無数にあいていて、これが血管係蹄で内側から基底膜にへばりついているとまるでメッシュで裏打ちしているように見えます

このメッシュ構造を介して血漿が濾過されているのです

一方、基底膜に外側から覆いかぶさる糸球体上皮細胞にはシダの葉のような細かい分葉構造の特記をもち、それぞれが隣の上皮細胞と堅く組み合っています

このシダの葉構造を透過電子顕微鏡で観察するために薄切するとまるで棘のような不連続突起が基底膜上に連なっているように見え、これらは足突起と呼ばれています

この足突起の構造が特徴的なので糸球体上皮細胞はすぐに同定できます

糸球体上皮細胞のある側が基底膜の外側、ということは、基底膜を挟んで反対側にある細胞が糸球体血管内皮細胞である、ということです

なお、メサンギウム細胞も基底膜の内側に見えますが、メサンギウム細胞は複数の血管係蹄に跨ってこれらを束ねる位置にあります

また、濾過に関係しないメサンギウム細胞には内皮細胞のような穴はあいていません

 

 

  • GFRって何?

GFRとは1分あたりに血液尿関門を通過して血管腔からボウマン腔に濾過される血漿の体積であり、単位はml/minです。分時原尿産生量と言い換えても間違いではありません。

 

 

  • 糸球体過剰濾過はなぜいけないの?

大きく分けて2つ理由があります

  • 糸球体濾過の主要な駆動力は血液尿関門内外の静水圧較差ですが、ボウマン腔の静水圧は生理条件下では十分に低く、それより下げることはできないので、圧格差を増やして濾過を強化するには糸球体血管係蹄内の圧を上げるしかありません。すなわち、糸球体高血圧を起こさなければならないのです。これが糸球体にとって負荷となり障害→硬化が進む推進力となると考えられています。
  • 糸球体に流れ込む血管は輸入細動脈ですが、出ていく血管は輸出細動脈であり、静脈ではありません。糸球体で濾過された後の動脈血が、輸出細動脈を経てその後に尿細管を栄養しているのです。糸球体における濾過量が大きくなると尿細管を栄養する動脈の粘稠度が上昇し、いわゆるドロドロ血液になります。このために、酸素需要が高い尿細管が虚脱から虚血に至るリスクが上昇すると考えられています。

以上2つのシナリオは、いずれも腎臓を流れる血液の量(=有効腎血漿流量)が変わらずに糸球体濾過だけが上昇した場合、という意味です

もしも人為的に有効腎血漿流量を選択的に上げることができれば上記のようなリスクを回避しながらGFRを増やすことも可能ですが、現代の医学ではまだこれに成功していません

 

  • 皮質と髄質の環境の違いは?

陸棲脊椎動物が陸上で体液量を維持するためには尿を濃縮しなければなりません。これによって余計な溶質を排出する際の水の喪失を必要最低限にとどめているのです。尿を濃縮させる駆動力は浸透圧勾配であり、これを生み出すために腎臓髄質は高浸透圧環境になっています。等浸透圧な血液が豊富に流れ込むと高浸透圧環境を維持することは困難です。このため、腎臓髄質の血流は必要最低限に留められており、ここに存在する尿細管上皮細胞、具体的にはヘンレの細いわなや集合管などの細胞は、慢性的な虚血に耐えるために代謝も極力抑えられています。細胞内にはエネルギー産生工場であるミトコンドリアがあまり見られません。一方、溶質の選択的な再吸収/排泄もまた尿細管の重要な役割であり、そのためのトランスポーターなどを稼働させるには大きなエネルギーが必要です。そこでこれらの機能は血流が豊富、すなわち等浸透圧環境にある皮質の尿細管上皮が担当しています。皮質の尿細管上皮細胞、すなわち近位曲尿細管、太いヘンレの上行脚(の一部)、遠位曲尿細管、結合尿細管(接合尿細管と記載されることもあります)などの上皮細胞にはエネルギー消費が活発である証拠であるミトコンドリアがきわめて豊富です。

このように、髄質の尿細管上皮細胞は常に虚血環境にいるため、本当の虚血病態に陥ってもわりと平気です。一方、皮質の尿細管上皮細胞は豊富に酸素を消費することを前提とした代謝をしていますので、虚血病態になるとかえって障害されやすいのです。

 

 

  • pHからH+濃度を推定できる?

以下の条件を覚えておけばpHの値からH+濃度を概算することはたいていの場合可能です

pH 7.00 → H+ 100nmol/L

pH 7.36 → H+ 44nmol/L

pH 7.40 → H+ 40nmol/L

pH 7.44 → H+ 36nmol/L

pH が0.3下がるたびに H+はおよそ2倍になる

pH が1,0下がるたびに H+は10倍になる

 

 

  • 細胞外液のpHがHCO3とPCO2で規定される理由は?

 

緩衝系Aにおいて解離指数をpKa、酸をA、塩基をHAと置くと、Henderson-Hasselbalchの式は pH = pKa + log([A]/[HA]) と示されます

ここで細胞外液における最大かつ決定的な緩衝系は炭酸緩衝系でありその解離指数は6.1なのでAにHCO3を代入すると pH = 6.1 + log([HCO3]/[H2CO3])の式が得られます

H2CO3は血液中の炭酸濃度であり、肺胞で血液に接する気体のCO2圧、すなわちPCO2に比例するが、その比例係数(=溶解係数)は0.0307です

したがって最終的なHenderson-Hasselbalchの式は pH = 6.1 + log([HCO3]/[0.03PCO2])となり、2つの変数であるHCO3とPCO2が細胞外液のpHの実質的な規定因子となるのです

 

 

  • 尿細管性アシドーシスの分類とその鑑別は?

尿細管における酸処理障害の結果生じた全身性アシドーシスが尿細管性アシドーシスです

遠位型=I型、近位型=II型、高K型=IV型の3病型に分けられます。III型は欠番です

遠位型=I型は集合管A型介在細胞(間在細胞と記されることもある)におけるH+分泌障害に基づくアシドーシスです。尿の酸性化させることができません。比較的少量のアルカリ剤で対処しますが、予後は良くありません。

近位型=Ⅱ型は近位曲尿細管におけるHCO3の再吸収障害に基づくアシドーシスです。最終的に尿を酸性化させることはできます。大量のアルカリ剤で対処します。

高K型=IV型は集合管におけるアルドステロン依存性のNa+/K+交換と、それに引き続くH+/K+交換の障害が原因となるアシドーシスです。高K型とはいうものの、実際には高Kというよりも「低Kではない」という方がより正確で、それでも低KとなるI型やII型から鑑別できることが多いでしょう。

 

 

  • AGの計算法とその意義は?

AG(Anion Gap)とは動脈血液ガス分析において(Na+) – (( Cl) + ( HCO3))で示される計算値であり、正常値は 12±2 mEq/Lです。

細胞外液の総陽イオン数と総陰イオン数はほぼ釣り合っており、陽イオンの大多数を占めるNa+と陰イオンの大多数を占める(Cl) + (HCO3)の差は生理状態ならば 12±2 mEq/L程度です。

ところが代謝性アシドーシス、すなわち(HCO3)が低下する患者の中には(Na+) – ((Cl) + (HCO3))が14mEq/Lを超える症例もあり、このような状態をAGが拡大していると称します。

AGが拡大している状態では、動脈血液ガス分析では通常測定しない何らかの陰イオンが増加して、これが(( Cl) + ( HCO3))と共に(Na+)と釣り合いを取っていると解釈されます。

なお代謝性アシドーシス=(HCO3)が低下して、かつAGが拡大していなければ、減った(HCO3)の分だけ(Cl)が増加しているはずで、この病態は高Cl血症性アシドーシスとも呼ばれます。

 

 

  • GFRとeGFRの違いを説明できる?

GFRとは1分あたりに血液尿関門を通過して血管腔からボウマン腔に濾過される血漿の体積であり、単位はml/minです。

ところが、ヒトは体格に伴って細胞外液量に個人差があります。同じGFRだと、体格が大きい=細胞外液量が多い人では血漿の浄化される効率が悪く、逆に体格が小さい=細胞外液量が少ない人では血漿の浄化効率が良くなります。すなわち、慢性腎臓病の進行に伴うアウトカムである血液浄化効率をGFRの生データだけで評価することはできないのです。

逆に、腎で排泄される溶質の血液における蓄積の度合いを比較すれば、血液浄化効率を平等に評価することが可能でしょう。そこで、大勢のボランティアに協力してもらって、血清Cr濃度とイヌリンクリアランス(GFRinu)の関係をプロットし、これを曲線に回帰させました。すると体表面積補正した男性ではおおよそ GFRinu = 194×Cr-1.094×年齢-0.287 の関係が得られたのです

そこで、それぞれの症例のCr値と年齢を上記の式に代入して得られた計算結果を腎機能の指標として、これをeGFRと呼ぶことにしました。単位はml/min/1.73m2です。

注意すべきは、ここで得られたeGFRはそれぞれの症例の実際のGFRの近似値ではなく、体表面積を1.73m2に補正した時のGFRというバーチャルな値だということです。たとえば体表面積が1.73m2である標準的な体形の男性のGFRが100ml/minならその人のeGFRはやはり100ml/min/1.73m2程度になるでしょう。しかしその男性が小柄で体表面積が1.38m2程度しかなければGFRは80ml/minが、逆に大柄で体表面積2.08ml/minくらい(←このくらいの人はときどきいます)ならGFRは120ml/minで、それぞれeGFRが100ml/min/1.73m2程度になるはずです。この3人のGFRはばらばらですが、eGFRは揃っており、すなわち血中Cr濃度はほぼ等しいはずなのです。

なお、血中のCr濃度は腎からの排泄速度だけでなく、その産生速度にも規定され、筋肉質であるほど高くなりがちです。そこで筋肉量の少ない女性では、さきほど得られた男性のeGFR回帰式に0.739を掛けた値をeGFRとしています。

またeGFRは通常血中Cr濃度から計算しますが、血中cystatin C濃度から計算する回帰式もあります。

 

 

  • クレアチニンクリアランスは計算できる?

クレアチニンクリアランスは血中Cr濃度と尿中Cr排泄量から計算するGFRです

糸球体で濾過された原尿が濃縮され、尿として排泄された際には1/Pの体積になっていたとすると、GFRは分時尿量をP倍することで得られます。

ある溶質Yが血液尿関門を自由に通過し、かつその後に尿細管で再吸収されることはなく、また尿細管へ血液から分泌されることもないとすると、PはYの尿中濃度をYの血中濃度で割ることによって求めることができます

最も理想的なYに近い物質としてはイヌリンが挙げられますが、しかしイヌリンクリアランス検査は手技が厄介なので、その代替として汎用されている簡便法がクレアチニンクリアランス=Ccrです

Ccr = 分時尿量 × P

= 分時尿量 × (尿中Cr濃度/血中Cr濃度)

多くの場合は一日蓄尿で求められるので

= 一日蓄尿量 × (蓄尿中Cr濃度/血中Cr濃度)÷ 1440分

単位はml/minです

この単位がml/minであることを覚えておけば計算はなんとかなります

 

 

  • β2ミクログロブリンの血清濃度と尿中排泄量の意義の違いは?

β2ミクログロブリンは全ての有核細胞から産生される小分子蛋白であり、このためその血中への供給速度は安定しており、血中濃度は消失速度に大きく依存しています

そしてβ2ミクログロブリンは血液尿関門を自由に通過するので血中消失速度はeGFR(Crで計算した者でもcystatin Cで計算したものでも可)に大きく依存します

すなわち、β2ミクログロブリンはCrのようにGFRマーカーとして機能し、その血清濃度はeGFRを、すなわち腎機能を反映します

ところが原尿中に排泄されたβ2ミクログロブリンはそのほとんど100%が近位曲尿細管で再吸収されるので、生理状態では排泄された尿中にはほとんど存在しません

すなわち、Crとは異なり、クリアランス検査に用いることはできないのです

尿中のβ2ミクログロブリン濃度が上昇するには、1)GFRが保たれており、原尿中にβ2ミクログロブリンが放出される、2)近位尿細管でβ2ミクログロブリンが再吸収されない、という2つの条件を同時に満たさなければならず、このため尿中β2ミクログロブリン排泄量は尿細管間質障害のマーカーとして利用されています。

 

 

  • なぜPCRは一日尿蛋白排泄量に近似するの?

一日尿蛋白量=24時間蓄尿中蛋白濃度× 24時間蓄尿量

=(24時間蓄尿中蛋白濃度÷24時間蓄尿中Cr濃度)

×(24時間蓄尿中Cr濃度×24時間蓄尿量)

=(24時間蓄尿中蛋白/Cr比)× 24時間 Cr排泄量

ここで尿中蛋白/Crには日内変動が乏しいので

≒(スポット尿中蛋白/Cr比)× 24時間 Cr排泄量

更に、体表面積1.73m2程度の標準的な体格男性の24時間 Cr排泄量は約1gなので

≒(スポット尿中蛋白/Cr比)g/day

となりスポット尿中蛋白/Cr比=PCRは一日尿蛋白排泄量の近似値となる

 

ただし、PCRはあくまでも目安の指標であって単位はつけません

厳密に単位をつけるならばg/day/1.73m2となるでしょうが、一般的ではないので注意してください

7/18

2019

【2019年】腎臓内科領域:3年生試験のポイント

3年生の皆さん、お疲れ様です。

試験が近づいていますが、ここで試験のポイントを一部公開したいと思います!

(追加の情報は随時更新していきますので、現時点での暫定的なものになります)

では、早速いきましょう!

・低ナトリウム血症、高ナトリウム血症、低カリウム血症、高カリウム血症の症状

・ネフローゼをきたす疾患、治療(一次性と二次性)

・微小変化型、膜性腎症:組織、臨床経過、治療、予後の違い

・糖尿病性腎症の診断と治療

・RPGNをきたす疾患とそれぞれの特徴

・尿細管の機能異常によって起こる疾患(代表的な疾患の特徴)

・利尿薬の作用部位

・CKDの診断、なぜCKDが重要か

・尿細管間質性腎炎

・慢性腎炎症候群の組織像

・ADPKD、ファブリー病

・原発性糸球体疾患の病理組織と臨床症候分類

5/9

2019

3年生講義解説

3年生の皆さんお疲れ様です。

講義の解説になります。

なかなかのボリュームですが、頑張って読み込んでください!!

血液尿関門の構造は?

糸球体係蹄の血管腔側から見て、有窓の内皮細胞、基底膜、足突起を持った上皮細胞からなる三層構造を呈しています

 

内皮細胞・上皮細胞・メサンギウム細胞を見分けられる?

基底膜の血管腔側、すなわち赤血球と同側にいるのが内皮細胞、その反対側にいるのが上皮細胞です

上皮細胞はその特徴ある足突起で直接同定することも難しくありません

メサンギウム細胞は血管を束ねる位置にいて、少なくとも基底膜の外側、すなわち上皮細胞側にいることはありません

 

GFRって何?

1分間に血液尿関門を通って濾過される血漿量の体積です

1分間当たりの原尿産生量と言っても差し支えありません

一方、eGFRは血清中の溶質濃度がその値にあるような糸球体濾過機能の推定値であり、厳密にはGFRとは異なる概念です

実際に、GFRの単位はml/minですが、eGFRの単位はml/min/1.73m2であり、それぞれの指し示しているものが異なっていることがわかります

 

GFRが高いとなぜ腎は障害されやすい?

機能するネフロンの数が多くて全体のGFRが高い場合は問題ありません

腎が障害されやすいのはネフロン当たりの糸球体の濾過効率が上がっているために見た目のGFRが高くなっている場合です

それぞれの糸球体の濾過効率は、その糸球体の物理係数に基底膜内外の静水圧較差から膠質浸透圧較差を引いた値をかけることで求められます

その中の最大規定因子は基底膜内外の静水圧較差ですが、しかし基底膜外の静水圧は膀胱尿管逆流現象でもない限り低い値で安定しています

結局、それぞれの糸球体の濾過効率を上げるには基底膜内側の静水圧を上げる、すなわち糸球体内の血圧を上げるしかなく、これが長期的には糸球体を障害させる原因となります

理由はもう一つあります

尿細管をはじめとする腎内の組織は糸球体で濾過を受けた後の輸出細動脈血で栄養されています

糸球体濾過が亢進すると、輸出細動脈血の血漿分画が少なくなる、すなわち尿細管を栄養する血液の粘稠度が上がるということを意味し、これによって尿細管が虚血によるダメージを受けるリスクが高まります

 

皮質と髄質の尿細管代謝の違いは?

皮質の尿細管上皮細胞(すなわち近位曲尿細管、ヘンレの太いわな、遠位曲尿細管、接合尿細管などの分節の上皮細胞)は一般にミトコンドリアが豊富で、すなわち酸素依存性に大量のエネルギーを産生/消費しています

これらの皮質の上皮細胞はエネルギーを湯水のように使いながら多岐に渡る輸送体を駆動させていますが、逆にエネルギー供給が止まる=虚血に至ると簡単にダメージを受けてしまいます

髄質の上皮細胞(すなわちヘンレの細いわな、集合管の上皮細胞)はミトコンドリアが乏しく、内因性エネルギーを用いた活動は活発ではありません

そのかわり虚血には強く、なかなかダメージを受けません

また、髄質は組織間液の浸透圧が高く、これを利用して皮質の分節では無理な「尿の濃縮」も行われています

 

GFRを推定するための2つの原理は?

一つはクリアランス検査です

糸球体で全て濾過され尿細管で分泌も再吸収もされないような溶質の血漿濃度(=原尿中の濃度)と時間当たりの尿中排泄量から計算して求めます

具体的には、時間当たりの尿量にその溶質の尿中濃度を血中濃度で割った値を係数としてかければ計算できます

クリアランス検査に用いられる溶質としては、イヌリンのように生体内に自然には存在せず検査のために静注する必要がある外因性クリアランス物質と、クレアチニンのように生理的に血中に存在して検査のために静注する必要はない内因性クリアランス物質の2種類があります

もう一つの原理はGFRマーカーを測定する方法ですが、これは厳密にいえば体表面積当たりのGFR、すなわちeGFRを求める方法です

その生理的溶質の血中濃度を規定する因子が年齢、性別の他には糸球体濾過率だけであるとき、この溶質はGFRマーカーとして血中濃度は体表面積当たりのGFRをおおよそ反映します

この関係が1:1で対応するとすればその回帰曲線から換算式が得られ、これを用いればGFRマーカーの血中濃度から体表面積当たりのGFR、すなわちeGFRを決定することもできます

eGFRを求められる、すなわち換算式が確立しているGFRマーカーとしてはクレアチニンとシスタチンC、eGFRを求める換算式は確立していないGFRマーカーとしてはUNやβ2ミクログロブリンなどを挙げることができます

このうちクレアチニンは内因性クリアランス物質であると同時にGFRマーカーでもあるため、腎機能を推定するために臨床では最も汎用されています

 

RPFの測定原理とその意義は?

糸球体でも濾過されるがその後に尿細管でも分泌され腎静脈に還流した時にはその血中濃度が0になっているような溶質のクリアランスは時間当たりの腎有効血漿量を反映します

すなわち、時間当たりのそのクリアランス物質の尿中排泄量はその時間内に腎を流れた動脈血中のクリアランス物質の含有量に等しくなるわけで、この関係を式に展開すると、GFR測定時のクリアランス式と同様、時間当たりの尿量にその溶質の尿中濃度を血中濃度で割った値を係数としてかけることで腎血漿流量=RPFが求められます

RPFを求めるためには外因性クリアランス物質であるパラアミノ馬尿酸(PAH)が用いられます

見た目のGFRが高いだけでは、それが機能するネフロンの数が多いからなのか、それともそれぞれの糸球体の濾過効率が高いためなのか、判別することは困難です

このとき、GFRをRPFで割れば、それぞれの糸球体にかかる圧負荷がおおよそ求められ、腎予後の推定や治療の評価に有用です

この指標を濾過係数=Filtration Fractionと呼びます

 

β2ミクログロブリンの血清濃度と尿中排泄量の意義の違いは?

その産生速度が安定し、かつ血中からの消失がほぼ糸球体濾過に依存するβ2ミクログロブリンはGFRマーカーと見なされ、その血中濃度は体表面積当たりのGFRをおおよそ反映します

しかし糸球体から濾過されたβ2ミクログロブリンは、そのほぼすべてが近位曲尿細管で再吸収された後に上皮細胞内で代謝されてしまうので、排泄された尿中には検出されません

これが検出されるのは、1)糸球体で濾過される、2)近位尿細管で再吸収されない、という2つの条件を満たした場合に限られ、したがって尿中β2ミクログロブリン排泄量は、糸球体障害ではなく、間質尿細管障害のマーカーとして頻用されているのです

 

どうしてPCR(=スポット尿の蛋白クレアチニン濃度比)は一日尿蛋白量に近似するの?

一日尿蛋白量は一日蓄尿中の蛋白濃度に蓄尿量をかけた値です

この分母と分子にそれぞれ蓄尿中のクレアチニン濃度をかけて展開すると、一日尿蛋白量は一日蓄尿中の蛋白クレアチニン濃度比に一日クレアチニン排泄量をかけた値になります

ここで、1)一日蓄尿中の蛋白クレアチニン濃度比はスポット尿の蛋白クレアチニン比に等しい、2)一日クレアチニン排泄量は1gである、という2つの前提を正しいものと仮定すると、スポット尿の蛋白クレアチニン濃度比は一日尿蛋白量の近似値となります

1)の前提はまあ正しいと考えても差し支えありません

しかし2)の前提は不正確であり、実は一日クレアチニン排泄量は体格に大きく依存するため、これが1gとなるのは体表面積がだいたい1.73m2くらいの人の場合です

すなわちPCRによる一日尿蛋白量の推定値とは、実は体表面積で補正する必要があるのですが、通常していません

病態を評価するためにも、補正はしない方が良いと思います、eGFRのように(笑)

 

クレアチニンクリアランスは計算できる?

クレアチニンは内因性クリアランス物質ですから、時間当たりの尿量に尿中クレアチニン濃度を血中クレアチニン濃度で割った値を係数としてかければ計算できます

単位はml/minになります

通常は一日蓄尿で計算しますので、時間は1440minになります

 

一日食塩摂取量は計算できる?

まず一日のNa摂取量は一日の尿中Na排泄量に等しいと仮定します(この仮定はおおむね正しい)

食塩1gあたりのNa含有量は17mEq

よって一日蓄尿量(L/day)に蓄尿中のNa+濃度(mEq/L)をかけて17m(Eq/g)で割れば一日の食塩摂取量(g/day)が計算できます

尿中Na+濃度(mEq/L)は食事の影響を受けて日内で大きく変動するので、一般にスポット尿で代用することはできません

「食塩1gあたりのNa含有量は17mEq」という情報は覚えておかなければならない知識です

 

pHからH+濃度を推定できる?

pH 7.00 →H+100nmol/L

pH 7.36 →H+  44nmol/L

pH 7.40 →H+  40nmol/L

pH 7.44 →H+  36nmol/L

pHが0.3下がる毎にH+はおよそ2倍になる

pHが1.0下がる毎にH+は10倍になる

以上の6項目を覚えておけば、後は算数で求めることができます

 

細胞外液のpHがHCO3とPCO2で規定される理由は?

細胞外液のH+濃度に決定決定的な影響を与えるのが炭酸緩衝系であると仮定するならば(この仮定はおおむね正しい)、Henderson-Hasselbalchの式に炭酸緩衝系を代入してpH = 6.1 + log([HCO3]/[0.03 x PCO2])の式が求められ、分子のHCO3と分母のPCO2が2つの規定要因であることが導き出されます

 

尿細管性アシドーシスの分類とその鑑別は?

集合管のA型介在細胞からのH+ 分泌障害に由来するI型、別名遠位型

近位尿細管上皮細胞のHCO3 の再吸収障害に由来するII型、別名近位型

集合管におけるアルドステロン作動性Na+-K+ポンプの機能抑制とそれに引き続くH+/K+交換輸送の抑制に由来するIV型、別名高K型

以上の3つに分類されます

III型は欠番です

血清K値が低下しないことでIV型はわかります

I型とII型は血清データでは鑑別できません

尿のpHが下がらない、すなわち酸性尿を産生できないのがI型であり、II型では酸性尿を産生することはできます

鑑別のための尿pHのカットオフ値は5.5です

 

AG(アニオンギャップ)の計算法とその意義は?

AG = (Na+)–  (( Cl) + ( HCO3)) mEq/L

正常値は12±2 mEq/L

血漿中の陽性荷電分子数と陰性荷電分子数は等しく、かつ陽性荷電分子のほとんどがNa+であると仮定するならば、Na+からClとHCO3を引いた値はClとHCO3以外の通常は測定しない陰性荷電分子に由来することになります

この差が拡大するということは、未知の陰性荷電分子が体内に蓄積している、すなわち未知の陰性荷電物質の産生亢進/排泄遅延が病態の背景にあることを示しています

なお、AG =((Na+) + (K+)) – (( Cl) + ( HCO3)) mEq/Lと定義する計算式もあり、より実情に近い未知の陰性荷電分子の値が計算されますが、しかしこの場合はもちろん正常値は変わり、わが国では一般的でありません

 

体液調節系の2つのシステムとは?

浸透圧調整系:浸透圧受容体→ADH分泌調整+口渇中枢刺激

容量調節系:頚静脈洞や大動脈弓の圧受容体→RAA系刺激+交感神経系刺激

浸透圧調節系は細胞内液+細胞外液の、容量調節系は細胞外液だけの調節を、それぞれ独立に行っています

細胞外液量は容量調節系が調整してくれるので、浸透圧調整系は事実上細胞内液量の調節に寄与しているという考え方もできます

 

RAA(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン)系が血圧を上昇させるメカニズムは?

アルドステロンによるNa+再吸収促進とアンジオテンシンIIによる血管平滑筋収縮の2つの作用から昇圧作用を示します

すなわち血圧=心拍出量x末梢血管抵抗ですが、アルドステロンの作用は心拍出量を規定する有効循環血漿量を、アンジオテンシンIIの作用は末梢血管抵抗そのものを、それぞれ上昇させるからです

 

交感神経緊張はなぜ血圧を上昇させる?

1.心拍数の増加

2.心筋収縮力の増加

3.末梢血管収縮

4.腎におけるレニン分泌促進

1, 2は心拍量を増やし、3, 4は末梢血管抵抗を増やすことで、その積である血圧は上昇します

 

食塩摂取と血圧の関係は?

有効循環血漿量を事実上規定する細胞外液量は、その最大の浸透圧既定因子となる溶質であるNa+の保持量に依存しています

摂取されたNa+を全て腎臓から排泄することができるならば食塩の摂取量は細胞外液量、すなわち血圧に影響を及ぼしません

しかし、摂取したNa+の量に応じてこれを排泄する調整機能が低い腎臓を持つ個体では、食塩摂取量によって血圧が変わってしまいます

これが「食塩感受性高血圧」であり、本態性高血圧患者の1/3程度を占めると推定されています

なお、摂取されたNa+を全て腎臓から排泄できる個体、すなわち血圧が食塩摂取量に作用されない個体においても、身体のNa+保持量と腎臓からのNa+排泄量のバランスには個体差があり、身体のNa+保持量に対して腎臓からのNa+排泄量が相対的に少ない個体は、本態性高血圧の過半数を占める「食塩非感受性高血圧」となります

ちなみに、わが国の高血圧治療ガイドラインにおいて一日食塩摂取量は6g未満であることが推奨されています

これは海からの恵みであり米・野菜・魚介類などとの相性が良い「食塩」に支えられてきたわが国の食文化に、大きな変革を求める提言です

これが本当に健康増進のために有用であるかどうかはひとまず置いておいて、そもそも「健康増進」という錦の御旗があれば社会の食「文化」を壊してしまっても構わないものなのでしょうか?

それは「医療の傲慢」なのではないでしょうか?

答えはわかりません

 

どうしてこのごろ診察室で血圧を測定しないの?

心血管イベントの発症リスクと関連が深いのは家庭における血圧です

診察室で測定する血圧の30%程度は家庭血圧から大きく逸脱するとされ、その値を信頼して診療を行うことは危険を伴います

ちなみに高血圧治療ガイドラインでは診察室血圧は家庭血圧より5mgHg高いことになっていますが、逆に診察室血圧が家庭血圧よりも低い「仮面高血圧」の症例も無視できない頻度で存在します

以上から、近年は診察室では血圧を測定せず、家庭で測定してきた血圧の記録を参照しながら診療を進める流れが注目を集めています

どうしても病院で血圧を測定したい場合は、リラックスして測定できる工夫を配した特別な部屋を用意する必要があります

 

急性腎障害=AKIの定義は?

AKIは「数時間から数週間の間の急激な経過によって腎臓の機能の低下をきたす病態」という疾患概念であり、KDIGOによって「48時間以内にCrが0.3 mg/dl以上増加した場合、または以前7日以内に判っていた前値の150%以上に増加した場合、または尿量<0.5ml/kg/hが6時間以上継続した場合」と定義されています

なお、以前7日以内の前値が不明な場合は、予測される基礎値で代行することも可能です

 

AKI症例をみたらどんな順番で対処する?

まず身体所見、血液生化学(動脈血液ガスを必ず含む)、心電図、胸部レントゲンなどの全身スクリーニングを行い、致死的合併症のリスクがあればこれに速やかに対応します

これが何にも優先する対処です

次に腹部超音波検査を施行して腎後性急性腎障害の有無を確認します

腹部超音波検査は腎萎縮の有無を確認することで慢性腎臓病であるかどうかの鑑別にも有用です

その次に、尿が出ていればその性状を評価することで尿細管機能をおおよそ推定します

 

尿所見に基づく尿細管機能評価は?

尿細管が機能する場合、尿は水の再吸収を受けてから排泄されるため、その組成は原尿の組成=血漿の組成に比較して浸透圧は高くなります

このため尿細管機能が障害されると一般に尿は薄く大量になります

AKIの定義を満たしかつ尿量が3000ml/dayを超えていれば確実に尿細管機能障害はあると判断できます

ただし逆は真ではなく、尿量が500ml/day未満であるからといって尿細管障害がないとはいえません

尿細管が機能しない場合は水だけでなくNaの再吸収機能も障害されているため、たとえ尿の浸透圧は低くてもNa排泄自体は健常者に比べて多めになります

中でもFENa(Fractional Excretion of Na = Na排泄率)は鑑別にしばしば利用され、1%を上回れば尿細管機能障害があると見なします

FENaは尿中のNa/Cre比を血中のNa/Cre比で割って100をかけ%化した値として求められます

なお、尿中へのNAGやβ2ミクログロブリンの排泄量も尿細管障害のマーカーとして有用ですが、速報性に劣るため、AKI診療への応用には限界があります

 

造影剤腎症=CINにどう対処する?

eGFR < 45ml/min (CKD stage IIIb)の場合にはCINのハイリスク群であると考えますが、しかしハイリスクとは見なされない症例でもCINが発症する可能性は常にあります

CIN発症予防のためには、何よりも高浸透圧タイプのヨード系造影剤の使用を回避すること、そして等浸透圧タイプであっても使用量を必要最小限にとどめることが肝要です

検査12時間前から12時間後にかけて少量の生理食塩水または重炭酸Na溶液を点滴静注し続けることはCIN発症のリスクをやや軽減させる可能性があります

検査終了後に血液浄化療法でヨード系造影剤を除去してもCINリスクは減少しません

しかしリスクを恐れるあまりに必要な検査までも回避してしまうとクライアントの健康被害リスクをかえって高めてしまいます

術前に十分な情報開示と状況説明を行って、クライアントの検査に対するモチベーションを高めつつCINの覚悟をしておいてもらうことは、何よりものリスクマネージメントです

 

透析時間は長ければ長いほどいいの?

血液浄化効率だけから考えれば24時間ずっと透析をしていることがベターであるとはいえます

しかし、体外循環を要する今日の血液透析は、その施行時間の間、クライアントの生活・行動を拘束します

これによるQOLの低下と血液浄化効率の改善に伴うQOLの向上をすり合わせることで好ましい透析時間が得られるわけですが、その落としどころには未だにコンセンサスがありません

ましてや、現在の技術では24時間週7回透析し続けたとしても腎臓の機能が全て代償できるわけではありません

以上を勘案すれば、「透析時間は長ければ長いほどいい」という結論を導き出すことは、少なくとも今日の医療事情では時期尚早であるといえるでしょう

 

腸管と尿毒症の関係は?

蛋白結合型尿毒物質は今日の血液浄化療法では効率よく除去できず、臨床上の大きな問題点となっています

代表的な蛋白結合型尿毒物質であるインドキシル硫酸やパラクレシル硫酸は、その前駆物質が大腸腔内で腸管細菌叢によって産生され、これが吸収された後に肝臓で最終的な尿毒物質となります

その意味で、尿毒症には大腸が大きく関与しているともいえるのです

最近では、腸管細菌叢に治療介入することで尿毒症に対処しようとする試みも報告されています

 

トレードオフ仮説を説明できる?

慢性腎臓病を機能するネフロンの数が減少した状態であるとします

すると腎臓における25ビタミンD1α水酸化酵素(CYP27B1)の活性総和が低下するため、血中で測定される1α25(OH)2VitD濃度、すなわちホルモンとして作用する1α25(OH)2VitDが低下します

この影響を最も大きく受けるのが小腸におけるCa吸収で、これが障害されるために細胞外液Ca濃度は低下傾向となります

一方、細胞外液の無機P濃度は体外との出納に大きく作用されますが、機能するネフロンの数が減少するだけで出納が正に傾くためその濃度は上昇傾向になります

低Ca血症も高P血症も副甲状腺機能の刺激因子であるためPTHが上昇しますが、そのPTHは血清Ca濃度を上昇させ血清P濃度は低下させる作用を示します

このため、そもそもの引き金となった低Ca血症も高P血症は是正されますが、見た目上はPTHだけが高い状態が残存してしまいます

以上がトレードオフ仮説の概要です

なお、やはり慢性腎臓病病態でその血中濃度が上昇してくる骨細胞由来のホルモンであるFGF23は尿中リン排泄を促進するとともにCYP27B1の活性を抑制するので、上記のトレードオフメカニズムのブースターとして働くことは間違いありません

ただ、FGF23が上昇してくるメカニズムが未だに不詳であるため、これをトレードオフメカニズムの本体に組み込むことに関しては未だにコンセンサスが得られていません

 

透析アミロイドーシスの主な臨床症状は?

透析アミロイドーシスとはβ2ミクログロブリンを前駆蛋白とするアミロイド線維(=Aβ2Mアミロイド線維)の沈着によって引き起こされるアミロイドーシスの一型の俗称であり、正式名はAβ2Mアミロイドーシスといいます

分類上は限局性のアミロイドーシスとされていますが、実際の症状は全身に及び、全身性アミロイドーシスであるという認識が必要です

有名な症状は運動器関連症状で、手根管症候群、透析脊椎症、破壊性骨関節症、骨嚢胞に伴う脆弱性骨折、関節痛、関節拘縮などは知っておく必要があります

運動器外症状として虚血性腸炎、不整脈などの見られることがあります

 

慢性腎臓病患者の痒みの3つの機序は?

慢性掻痒症は維持透析患者の56~86%が自覚する頻度の高い病態です

慢性腎臓病病態では、1)表皮が乾燥して薄くなるため掻痒を感知する神経終末が皮膚表面近くにまで進出し外界からの刺激を受けやすくなる、2)未知の尿毒物質が神経終末を刺激したりヒスタミン分泌を増幅させたりする、3)内因性麻薬用物質のバランスが乱れて神経終末からの小さな刺激を脳が増幅して重篤な掻痒感と受け止めてしまう、などのメカニズムが提唱されています

このように機序が一つではないため、治療にも難渋しています

 

腎機能障害者はどうして貧血になる?

eGFRが30ml/min/1.73m2を切ると高率に重篤な貧血を合併します

腎臓間質におけるエリスロポエチン分泌能の相対的な低下が主因です

しかし、そのほかにも鉄欠乏、鉄利用障害、赤血球寿命の低下なども腎機能障害者にはしばしば認められ、これらも貧血を助長します

いわゆる腎性貧血とは慢性腎臓病患者に認められ他に明らかな原因のない貧血の俗称ですが、エリスロポエチン産生の低下と同義ではないことに注意しましょう

 

拡散効率を上げて対処すべき病態は?

半透膜を介して溶質組成の異なる2つの溶液が接し合うとき、拡散によって、小分子溶質が移動し、大分子溶質は移動せず、溶媒は動的平衡状態を保つために見た目上は変化しません

すなわち、血液浄化療法で拡散によって対処可能な病態は小分子濃度の異常による病態だけで、具体的には電解質・酸塩基平衡異常、血漿浸透圧の異常、UNやUAなどの小分子蓄積による尿毒症症状などがこれに相当します

なお、クレアチニンも小分子であり、拡散効率を上げればクレアチニン濃度は低下しますが、それによって具体的に臨床症状が改善するかどうかはわかりません(たぶんよくなりません)

 

限外濾過効率を上げて対処すべき病態は?

溶質組成の異なる2つの溶液が接し合う半透膜に外力が加わると、限外濾過によって、小分子溶質は溶媒とともにその濃度を維持したまま移動し、大分子溶質は移動しません

すなわち、血液浄化療法で限外濾過をかけると、小分子濃度は変わらず、溶媒量=循環血漿量が減少し、大分子濃度が上昇します

これによってベネフィットが得られる病態はうっ血状態です

限外濾過による直接的な除水効果に加えて大分子溶質濃度の上昇=膠質浸透圧の上昇による間質から血管内への水の引き戻しで、病態は効率よく改善されます

なお、限外濾過をかけると一般に中分子溶質の除去効率もよくなりますが、これは膜の孔サイズとの相対的な関係に基づくため、本質的な機能であるとはいえません

拡散によって小分子を調整しつつ限外濾過で水をコントロールすれば、腎機能が廃絶していても当面の生命維持は可能です

ただ、長い目で見てそれだけでよいのか?クライアントのQOLを保つためにそれだけで十分なのか?という議論はつきず、現在も試行錯誤が続けられています

 

血液濾過透析の仕組みを説明できる?

半透膜を用いた血液浄化を施行する際、血液から見て半透膜の対側に供給される透析液の流速をA、流出する速度をBとします

0<Aなら「半透膜を介して溶質組成の異なる2つの溶液が接し合う」という関係が成立するので、拡散が起きます

またA<Bなら血液側から見て半透膜に向かう陰圧(=外力)がかかるために限外濾過も起こります

これを同時に行う、すなわち0<A,<Bとすれば、拡散と限外濾過が共存する一般的な「血液透析」のモデルとなります、

ここでA<<Bとすると限外濾過量は増えますが、脱血量に対して返血量が著しく不足し、クライアントが循環虚脱に陥ってしまいます

これを防ぐため、回路上の限外濾過の上流でも下流でもよいので、細胞外液類似の組成の輸液を行って穴埋めする血液浄化療法が「血液濾過透析」です

血液濾過透析が血液透析に比べてクライアントにどれだけのメリットをもたらすか、その機序を含めて未だに検証が続けられており、定説はありません

ちなみにA>Bは逆濾過と呼ばれ、細かい目で見ると血液浄化の現場において限定的に起こっています

 

腹膜透析の利点と欠点は?

腹膜透析は体外循環を利用しません

これが利点であり、欠点にもなります

利点として、1)体外に脱血させずしかも長時間にわたって緩徐に物質交換を行っているため循環器への負担が少ない、2)医療機関への受診回数や診療時間が少なくてすむので生活の自由度が高い、3)導入後の残腎機能の保持期間が長い、等の点が挙げられます

欠点としては、1)腹膜という身体の一部を透析器として用いるため、換えがきかず、腹膜機能が劣化したら中止せざるをえない、2)膠質浸透圧に依存するきわめて弱い限外濾過しかかけられないために溶媒の除去効率が悪く、うっ血病態を改善しにくい、3)本人ないしは家人が習得した手技をきちんと遂行し続けなければならない、等の点が挙げられます

腹膜透析の方が食事や生活の制限が少ない、という意見もありますが、ちょっと言い過ぎかもしれません

確かに腹膜炎は多発しますが、非肺炎性感染症が多いことは血液透析患者も含めた慢性腎臓病患者全体の問題であり、また3)と被る問題でもあります

被嚢性腹膜硬化症という腹膜透析独特の合併症は、病態の理解と予防ノウハウの確立によって、脅威の度合いが下がってきました

 

腎代替機能を持たない血液浄化療法は?

細胞外液組成に類似な透析液ないしは置換液を用いない血液浄化療法が全てこれに相当します

具体的には血液吸着療法、血漿交換療法などには腎代替機能がありません

 

CaとPの代謝の共通点と相違点は?

共通点は、1)どちらも小腸で吸収され、2)細胞外液を経てその大半が巨大なストックスペースである骨に貯蔵され、3)遊離したものは腎臓から排泄され、4)副甲状腺がその主要な調整者であることです

相違点は、1)Caの消化管吸収効率は悪く経口摂取してもビタミンDのアシストがないとほとんど吸収されないのに対し、Pは経口摂取すればするほど消化管から吸収される、2)Caは細胞外液以外には事実上骨にしか分布していないのに対し、Pは細胞内液や軟組織にも相当量分布する、3)副甲状腺は細胞外液Ca濃度を上昇させるが、腎における再吸収を阻害することで細胞外液P濃度を低下させる、ことなどです

一見似ているCaとPの代謝ですが、前者は少量吸収・再利用・少量排泄、後者は大量吸収・大量排泄、と、その運用哲学は真逆です

 

PTH分泌の調節機構を説明できる?

PTHの本質的な機能は細胞外液のCa濃度を低下させないことであり、副甲状腺細胞におけるPTH分泌の最大調節因子も細胞外液のCaです

すなわち、1)細胞外液のCa濃度が十分なレベルに達すると、これを感知した細胞外液Ca感知受容体が副甲状腺細胞内にシグナルを送り、PTHの分泌が抑制されます

2)PTHの本質的な機能は細胞外液のCa濃度を低下させないことであり、その分泌が低下するとPTHの骨作用・腎作用を介して細胞外液Ca濃度は低下します

3)すると今度はこれを感知した細胞外液Ca感知受容体が副甲状腺細胞内にシグナルを送ることを停止するため、ストッパーが外れた副甲状腺細胞はPTHを分泌して、細胞外液のCa濃度が上昇し、1)に戻ります

ミクロのレベルでこの動的平衡が保たれながら細胞外液のCa濃度とPTH分泌は見かけ上の安定を保っています

なお、1α25(OH)2VitDやFGF23などもCaとは独立して副甲状腺細胞のPTH分泌を調節しますが、その影響力はCaに比べればかなり弱いといえます

 

補正Caの意味がわかる?

Payneの式:補正Ca=血清Ca測定値 + (4.0-Alb) mg/dlで示される補正Ca値とは、「その症例の血清Alb濃度が4.0g/dlであると仮定したときの血清Ca濃度の相対的な立ち位置」というバーチャルな概念です

イオン化Ca濃度の推定値ではなく、そのサンプル血漿中のCa含有量を血漿体積で割った真のCa濃度を超える値が示されることも希ではありません

 

高Ca血症の原疾患の鑑別は?

低Ca血症と比べると高Ca血症の原疾患は限られており、鑑別は比較的容易で、だからこそフローチャートが作成できるともいえます

高Ca血症の症例を見たら、まずよく問診をとり、原因となる薬剤や健康食品を摂っていないか、日常生活能力はどうかを確認します

次にPTHとPTHrP、1α25(OH)2VitD濃度を測定します

ここまでで95%以上の症例に異常が指摘できるはずです

ここまでで異常がない場合は甲状腺機能亢進症、副腎機能低下症なども鑑別に挙げる必要がありますが、まれに全く原因がつかめない症例も経験します

ちなみにわが国で最も頻度が高いのではないかとされる「骨粗鬆症治療薬の副作用による高Ca血症」は、海外ではほとんど目にすることがありません

逆に米国では高Ca血症原因の第3位である「ミルクアルカリ症候群」にわが国で遭遇することはきわめて希です

 

CKD-MBD=Chronic Kidney Disease – Mineral and Bone Disorderってどんな疾患?

CKD-MBDとは「心血管や骨の障害を起こすに至りうる慢性腎臓病に伴う全身性のミネラル代謝異常」と定義される2005年に提唱された比較的新しい概念であり、それまで続発性副甲状腺機能亢進症、腎性骨症などと呼ばれていた病態の総称です

その本質は「全身性のミネラル代謝異常」であり、慢性腎臓病に見られる骨代謝疾患が全てCKD-MBDに含まれるというわけではありません